研究実績の概要 |
銅は生体内でCu(II)とCu(I)の2種の酸化状態をとることができる。銅の酸化還元はエネルギー産生や活性酸素の除去など、生体にとって有用な反応に利用されるが、厳密な制御から外れた酸化還元はフェントン反応などにより酸化ストレスを惹起する可能性を持つ。このため、Cu(II)またはCu(I)に対して特異的に結合し、酸化還元を抑制するキレート物質は有力な抗酸化物質となり得る。例えば、細胞内でCu(I)を安定化するグルタチオン、細胞外でCu(II)を安定化するヒスチジンなどのアミノ酸やアルブミンは、この種の抗酸化物質の例である。 脳は不飽和脂質に富み、酸素消費量も多いことから、生体内でも特に酸化ストレスに晒されやすい部位である。しかし、脳、特に脳の細胞外における抗酸化ストレスの機序については不明な点が多く、抗酸化に関わる物質の特定も進められていない。本研究では、鎮痛作用が主たる役割と考えられているオピオイドペプチドが脳内における抗酸化系を担う可能性に着目し、その機能メカニズムを解明することを目的とした。 本研究では、オピオイドペプチドの中で、特にエンドモルフィン1(EM1)に着目した。EM1は4アミノ酸残基から成る短いペプチドであるが、4残基中の3残基が芳香族アミノ酸(Tyr, Trp, Phe各1残基)であるという特徴的なアミノ酸組成を持つ。本研究の結果から、EM1は脂質膜のモデルであるSDSミセルと結合した状態でCu(I)と結合することが明らかになった。また、銅との結合にTyr残基が必須であることがわかった。さらに、銅の酸化還元制御に関わる物質の探索を行った結果、神経伝達物質として知られるセロトニンがCu(II)を還元することで、銅の細胞内取り込みに関わることも明らかにした。
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