研究課題/領域番号 |
17K08248
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
近藤 次郎 上智大学, 理工学部, 准教授 (10546576)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | インフルエンザ / 抗ウイルス薬 / ドラッグデザイン / RNA / X線結晶解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、細菌感染症に処方されるアミノグリコシド系抗生物質を、その立体構造情報に基づいて分子改変することで抗インフルエンザ薬へと生まれ変わらせることを目的としている。 インフルエンザウイルスは8つに分節された一本鎖ゲノムRNAをもっている。これら8つのゲノムRNA(vRNA)と、複製の過程で作られる8つの対鎖RNA(cRNA)の両末端には、プロモーター領域と呼ばれる互いに相補的で保存性の高い配列が存在する。通常この領域は安定な二本鎖構造をとっているが、ここにRNAポリメラーゼが結合すると二本鎖が一本鎖にほどけ、複製・転写が開始される。したがって、薬剤によってプロモーター領域の二本鎖から一本鎖への構造変化を妨げれば、ゲノムRNAの複製・転写の開始を阻害してウイルスの増殖を抑えることができる。 今年度はまず、我々が開発予定の薬剤の標的となるvRNAおよびcRNAのプロモーター領域の立体構造を明らかにすることを目指した。構造解析に用いるモデルRNA分子を設計・化学合成・精製し、当研究室で独自に開発した核酸分子結晶化用スクリーニングキットを用いて結晶化条件を検索した。その結果、vRNAとcRNAともに数種類の条件で良質な単結晶を得ることに成功した。このうちいくつかの単結晶について共同利用放射光施設Photon Factoryの構造生物学ビームラインでX線回折実験を行い、良質なデータを得ることができた。そして、vRNAとcRNAそれぞれについて、結晶形1種類ずつの構造解析に成功した。 また、vRNAおよびcRNAプロモーターに結合させるアミノグリコシドについての立体構造情報およびRNAとの結合様式を明らかにするために、アミノグリコシドが結合することが知られているリボソームRNAの特定の領域についてもモデル分子を作成し、アミノグリコシドとの共結晶化および構造解析を行った(原著論文1件)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の計画として、①構造解析用のモデルRNA分子の設計・合成、②薬剤探索、③結晶化実験を計画していた。このうち①と③については計画通り実験を遂行することができ、実験③で得られた単結晶を用いて、2年目以降に計画していた④X線結晶解析にも着手することができた。一方で、②薬剤探索については、実験手法や実験条件の検討を行うことはできたが、具体的な薬剤探索作業には着手できなかった。 この実験と平行して、我々が開発を目指しているアミノグリコシドについての立体構造情報とRNAへの結合様式を明らかにするための実験を行ったが、これについては計画よりも早く構造解析に成功し、原著論文1報(Kanazawa et al., 2017, Nucleic Acids Res.)と国際学会口頭発表1件として報告した。現在、さらに2件の原著論文を執筆中である。 以上を総合すると、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、昨年度に得られたvRNAおよびcRNAの単結晶のうち、構造解析に成功していないものについてX線回折実験と立体構造決定を行う。この実験が成功すれば、vRNAおよびcRNAのプロモーター領域のさまざまな安定・準安定状態の立体構造スナップショットが得られることになるので、これをつなぎ合わせて動画作成することでプロモーター領域の動的構造変化についての考察が可能になる。この計画が実現した時点で、学会発表や論文執筆に着手したい。 また、昨年度に着手できなかったプロモーターRNAに結合する薬剤の探索も平成30年度中に行う予定である。 さらに、昨年度に行ったアミノグリコシドの立体構造情報とRNAへの結合様式を明らかにするための実験では、昨年度に原著論文として報告したもの以外にも数種類の立体構造解析に成功しているため、この成果についても学会発表や論文執筆を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、研究費を主に化学合成RNAや結晶化用試薬の購入、X線回折実験を行うための放射光施設(高エネルギー加速器研究機構Photon Factory)への出張旅費に充てた。しかし、想定していた以上に順調に結晶化実験に成功したため、化学合成RNAの購入を必要十分な量に抑えた。さらに国際学会が東京で行われたために学会のための出張旅費が抑えられ、次年度使用額として162,476円が生じた。 平成30年度は、vRNAおよびcRNAのプロモーター領域の変異体についても構造研究を行う予定であり、次年度使用額として生じた162,476円は主に化学合成RNAの購入に充てる予定である。
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