本研究は、細菌感染症に処方されるアミノグリコシド系抗生物質を、その立体構造情報に基づいて分子改変することで抗インフルエンザ薬へと生まれ変わらせることを目的としている。インフルエンザウイルスの8つに分節された一本鎖ゲノムRNA(vRNA)と、複製の過程で作られる8つの対鎖RNA(cRNA)の両末端に存在する相補的で保存性の高いプロモーター配列は、通常は二本鎖構造をとっているが、RNAポリメラーゼが結合すると二本鎖が一本鎖にほどけ、複製・転写が開始される。この構造変化を妨げて、ゲノムRNAの複製・転写の開始を阻害する薬剤のデザインを目指した。 最終年度には、前年度に引き続きvRNAおよびcRNAのプロモーター領域の構造解析を行った。その結果、vRNAについては4種類、cRNAについては2種類の結晶構造を解析することに成功した。こうして得られたvRNAとcRNAの立体構造スナップショットをつなぎ合わせて、それらの動的構造変化を観察した。特にvRNAについては、RNAポリメラーゼの結合前後の構造変化のモデルを構築することができた。 また、vRNAおよびcRNAプロモーターに結合させるアミノグリコシドについての立体構造情報およびRNAとの結合様式を明らかにするために、アミノグリコシドが結合することが知られているリボソームRNAの特定の領域について4種類のモデル分子を作成し、アミノグリコシドとの共結晶化および構造解析を行った(原著論文1件)。そして、得られた構造情報に基づいて、vRNAとcRNAに結合することが期待される新規アミノグリコシドを分子設計した。 さらに、vRNAとcRNAに強く結合する抗インフルエンザ核酸医薬品を開発するために、医薬品の骨格となる4種類のRNA構造モチーフの構造解析も行った(原著論文1件)。今後は、得られた構造情報を用いて核酸医薬品をデザインする予定である。
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