研究課題/領域番号 |
17K08250
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
東 達也 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (90272963)
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研究分担者 |
佐藤 守 千葉大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (20401002)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分析科学 / 臨床検査 / LC/ESI-MS/MS / ハイスループット化 / 誘導体化 / アナログ/アイソトポログ / 原発性アルドステロン症 / HPA軸 |
研究実績の概要 |
平成30(2018)年度は,まず前年度の続きとして,肝胆道系疾患のマーカーである血中一次胆汁酸 (コール酸及びケノデオキシコール酸) の3検体一括定量法開発を行った.カルボン酸用誘導体化試薬,DAPPZとそのアイソトポログ2種を用い,従来法よりも分析時間を1/3に短縮できる測定系を確立した.現在,論文化を進めている. これと並行して,原発性アルドステロン症 (PA) の検査において,左右副腎のそれぞれ3か所の静脈支脈から部位選択的に採血するssAVSとその後のアルドステロン (ALD) 測定に,誘導体化に基づく多検体一括定量法のコンセプトを導入した.すなわち,LC/ESI-MS/MSにGirard試薬Pのアイソトポログ (GP及び2H5-GP) を用いる誘導体化を組み入れ,2検体同時定量法を開発した.検量線は1.0-40 ng/mLの範囲で直線性を示し,また,精度,正確度も良好であった.誘導体化によってLOQ (1.0 ng/mL) は4倍改善された.片側性PA患者から得た計22のssAVS試料について,腫瘍 (APA) が存在する副腎を確実に同定できた.また,高濃度のALDが検出された試料の採取部位と摘除組織の病理検査によるAPA部位はよく一致していた.このように本法は2つのssAVS試料を同時定量・直接比較することから,片側性/両側性PAの診断やAPA部位の特定の精度向上につながると期待される.さらに,1検体ごとのLC/ESI-MS/MS定量法に比べて,本法では前処理後の分析時間を2/3に短縮することができ,スループットも改善された.この成果について論文発表した. さらに,HPA軸の機能検査に有用な尿中テトラヒドロコルチコイドグルクロニドの定量にもDAPPZとそのアイソトポログを導入し,新規定量法を開発した.この成果も論文発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように,肝胆道系疾患のマーカーである血中一次胆汁酸について,カルボン酸用誘導体化試薬,DAPPZとそのアイソトポログ2種を導入し,3検体一括定量法を確立した.また,ssAVSとその後のアルドステロンのLC/ESI-MS/MS 測定に,Girard試薬Pのアイソトポログを用いる誘導体化を組み合わせ,2検体同時の原発性アルドステロン症の検査法を開発した.さらにHPA軸の機能検査に有用な尿中テトラヒドロコルチコイドグルクロニドの定量にも,DAPPZとそのアイソトポログを導入して新規定量法を開発した. このように,3項目について,本研究課題の鍵である誘導体化試薬アイソトポログの開発とそれを用いた新規測定手法の確立まで到達することができた.そして,ハイスループット化の評価,実試料を用いた臨床応用性の確認もできた.副腎静脈血中アルドステロン及び尿中テトラヒドロコルチコイドグルクロニドの研究については,既に論文化まで終わっている.また,アルドステロンの研究で得られた誘導体化の知見を活かし,原発性アルドステロン症の治療のために摘出された組織の質量分析イメージングにも成功した. 一方,平成30(2018)年度の計画にあったエストロゲンの定量法開発では,検討した試薬4種のうち,2種が十分には機能しないことが判明した.そこで,本研究については2検体一括定量法として,測定対象をエストラジオールのみならずエストロンに拡大して新たに計画を練り直して進めているが,問題となるほどの進行の遅れはない. 以上を総合し,研究は「概ね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成30(2018)年度までは誘導体化試薬アイソトポログを用いる多検体一括定量法の開発を行ってきたが,2019年度は誘導体化試薬アナログを用いるそれを行う.まず,先天性副腎過形成症の診断マーカーである17α-hydroxyprogesterone (17OHP) を対象として,多検体一括定量法の開発を試みる.すなわち,血漿中17OHPに対し,既存のGirard P試薬(pyridinium)やGirard T試薬(trimethylammonium)を基本に,メチル基を追加した4-methylpyridiniumやethyldimethylammoniumの荷電部位を有するGirard試薬アナログを合成する.さらには,得られる誘導体のLC挙動を大幅に変化させるために,既存試薬と大きく構造の異なるquinoliniumや4-phenylpyridinium部位を有する試薬も合成し,性能を評価する.平成29(2017)年度の研究により,検体数を増やしすぎると血漿マトリックスによる悪影響が見られることが分かっているため,同時測定は4検体程度とする.合成した試薬のうち4つ程度を組み合わせ,血漿中17OHPの新規ハイスループット定量法の確立を目指す. また,平成30(2018)年度に実施したエストロゲンの多検体一括定量法開発では,ダンシルクロリド (DNSCl) とDNSClのメチル基をエチル基に置き換えたDENSCl以外の試薬は満足に機能しなかった.そこで,用いる試薬をこの2種の絞り,エストラジオールとエストロンの同時定量法を確立させる. さらにDAPPZとそのアイソトポログの適用範囲拡大を目指し,グルタル酸血症(先天性代謝異常症)のマーカーであるヘキサノイルグリシンの多検体一括定量法の開発も並行して行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験にかかる消耗品は当初の計画に基づき必要なものを購入し,その量及び金額は大凡予定通りであった.しかし,平成29(2017)年度からの繰越金が19万円余りあり,ほぼその分を2019年度に繰り越す結果となった.なお,平成30(2018)年度にもLC/MS装置の修理・メンテナンスが行われたが,別の予算 (大学からの研究費及ぶ他の外部資金) から支出した.また,成果発表のために3つの学会に出席したが,これにかかる旅費については特段に理由はないが,大学からの研究費から支出した.以上のことから,結果として17万円余りの繰越が生じ,これは次年度にて以下に記すように有効に使用する予定である. 平成30(2018)年度の繰越額については,2019年度分の助成額と合わせて,まずはLC/MS用カラム,LC/MS装置消耗品,合成用試薬,溶媒などの消耗品費として使用する予定である.17OHP,エストロゲン,ヘキサノイルグリシンの3つの実験を同時に進める計画であるが,繰越額は主として17OHPの実験のために使用する.また,LC/MS装置の修理が必要になった場合は,繰越額をこれにも充てることもある.
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