研究課題
平成29年度は、マウスでの防御抗体価誘導および抗体価維持期間の2点に焦点をあて、人工エラスチン分子のどの物性がこれらにどの程度の影響を与えるパラメータとして寄与するのかを検証した。具体的には、鎖長、疎水性度、相転移温度、動的粘弾性、ゲル自然崩壊速度、プロテアーゼ耐性、抗原放出プロファイルに関して詳細に検証した。プロテアーゼ耐性を定量的に評価する試験系およびin vitroでのデポからの抗原放出量を定量解析する手法は汎用法が無いため、それぞれ新たにアッセイ系を構築して新知見を得るに至った。また、デポ内に自然免疫リガンドを共存させたデポ型抗原に対する免疫応答解析を実施した。デポ化抗原をマウスに単回免疫した後、4・6・8・10・14・20週間後に尾静脈より部分採血して血中抗体価を粒子凝集法により測定し、防御抗体価の誘導および抗体価の推移を経時的にモニターした。その結果、抗体産生誘導および抗体価の維持に送達システムによる寄与があることを強く示唆する結果が得られた。これらの結果は、当該事業で検証する「抗原・アジュバント・送達システムがそれぞれ独立した要素で複合的に免疫応答に寄与する」内容に対して本質的に迫るものである。 ゲル架橋点を規定するシステイン残基の数および幾何的配置が人工エラスチンのゲル形成に大きく関与する事実に対して、現在までに得られている断片的情報をフィードバックし、系統的解析ができるように分子設計を一から見直し、新規人工エラスチン分子の調製に着手した。
2: おおむね順調に進展している
抗体価誘導および維持に寄与する人工エラスチンの分子要因のうち、ゲル架橋点数に関する情報が最も少ない現状にある。ゲル架橋点数の系統的解析に必要な人工エラスチンを揃えるには、人工エラスチンの基本ユニット設計、人工遺伝子ライブラリーからのクローニング、鎖状化、発現・精製のトライアンドエラーという多段階を踏まねばならず、当該事業の中でも最も時間を要する実験項の1つである。この状況下で、ゲル架橋点数を系統的に検証するための分子設計および人工遺伝子調製に計画どおりに着手・進行できている点が大きい。また、防御抗体価誘導および抗体価維持期間に寄与する人工エラスチンの分子要因の順位付けが予定以上に早い段階で明らかとなりつつあることも、その理由である。
マウスでの防御抗体価誘導および抗体価維持期間を優位にするための人工エラスチン分子と免疫惹起能に関する構造-機能相関を明らかとするため、前述の物性プロファイルおよび抗原放出プロファイルの情報収集を昨年度に引続いて実施する。また、人工エラスチンデポ抗原を免疫して誘導される抗体の特性解析として、抗体のavidityに着目して解析を進める。抗体のavidityは優れた抗体を規定する因子の1つであり、avidityの解析に必要なアッセイ系をELISA法で構築する。抗原単独を免疫して得られた抗体と比較して、統計的に有意な差が得られるかどうかを検証する。高avidity抗体産生に必要な人工エラスチンの分子要因が存在するかどうか等、将来的に人工エラスチンによる効果的な抗体誘導に対する統合的理解ができるような構造-機能相関展開の可能性を探りたい。
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