研究課題
現在臨床使用されている不活化ワクチンは主にTh2細胞による液性免疫誘導による生体防御であり、Th1型免疫を誘導するワクチンの設計につながる方法論の研究が精力的に進められている。本研究では、抗原徐放の寄与に関して、すなわち送達システムの観点から検討を重ねる。具体的には、抗原デポ内には複数種の薬物の貯留が容易に可能であり、抗原徐放および抗原留置部位での抗原と自然免疫受容体リガンドの同時刺激が、抗体産生にどう影響するのかを解析できる。平成30/2018年度は、抗原と共に各種の自然免疫受容体リガンド分子を添加したデポを皮下に注射留置したマウス血清に認められる免疫応答について検討を行った。平行して、産生誘導された抗体のavidityを解析するELISAの系を構築し、高avidity抗体産生に対するデポ型抗原の有効性を調べた。その結果、抗体産生誘導時期および抗体価の維持、高avidity抗体産生の全てに対して、抗原徐放の寄与があることを強く示唆する結果が得られた。これらの結果は、免疫原性の増強に対して送達システム自体に独立的な寄与が存在することを明確に示す内容であり、ワクチン基盤開発へのサイエンスの本質に迫るものである。また、現在までに得られている人工エラスチン-抗体産生能に関する情報をフィードバックし、より効率よく抗体産生誘導ができると予想される長鎖型の新規人工エラスチン分子の調製にも着手した。昨年度から開始したゲル架橋点数の検証に資する人工エラスチン分子の設計・調製は、当該年度も継続的に実施した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度に、(1)優れた抗体を規定する因子の1つである抗体のavidityの程度を解析できる系、(2)抗体のサブクラスを定量解析できる系、の2つの安定な評価系を構築できたことが大きい。これらの評価系を用いることによって、人工エラスチンによる抗原徐放が、どのように免疫原性増強に寄与するのかが明らかとなった。また、免疫原性をより増強させる為に、人工エラスチンに求められる分子要因の一旦も明らかとなりつつある。最終年度である2019年度に向け、これらの情報をフィードバックして新たな人工エラスチン設計へと繋げられている点は、申請書に明記した計画に沿った方向性であり、当該研究が順当に進展していることの判断材料とした。
この2年間の研究事業で、人工エラスチンゲルによりデポ型抗原を皮下組織に留置するという抗原の徐放化技術が、抗原の免疫原性、特に抗体産生に優位に働く事実を明らかとした。人工エラスチンはペンタペプチドVPGXGの繰り返し配列のみからなるリコンビナントポリペプチドであり、Xにどのアミノ酸残基を置換するのか、そして、ペンタペプチドの繰り返し数をどの程度に設定するかよって、人工エラスチンゲルの粘弾性や生分解性などの物性をチューニングすることが可能である。これまでに、人工エラスチンゲルに求められる分子要因の一旦がかなり明らかとなった。研究期間内に得られた結果を帰納的に解析し、新規な人工エラスチンゲルの設計、機能解析に繋げていく。
すべて 2018 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
Med. Chem. Commun.
巻: 9 ページ: 783-788
10.1039/c8md00010g
Medicines(Basel)
巻: 5 ページ: pii: E120
10.3390/medicines5040120
http://www.marianna-u.ac.jp/microbiology/office/003334.html