研究課題
令和元年度は、良質の破傷風抗体産生というアウトプットが求める人工エラスチンの分子要因への統合的理解を目的として、H29年度・H30年度に得られた情報をフィードバックして、帰納的解析に不足した情報を実験的に補った。具体的には、人工エラスチン側からの3つの分子要因、すなわち、鎖長・ゲスト残基Xの疎水性度・ゲル架橋点Cysの数と配置、一方、生体反応のアウトプットの1つとしての抗体産生能については、抗体価・有効抗体価持続期間・avidityであり、これら各要素にどのような相関関係が認められるのかを解析した。特に、前年度には不足していた人工エラスチンの鎖長に関する情報を補う為に、長鎖の人工エラスチンを設計・調製して、その物性および薬物徐放性等のin vitroでの機能の解析、マウスに産生される抗体の質的・量的解析を実施した。これらの情報を整理し、破傷風トキソイド抗原に適した人工エラスチンの分子要因を導き、その一部を本研究事業の成果発表として国内の学会(第35回日本DDS学会学術集会・第41回日本バイオマテリアル学会大会)で発表するとともに、専門誌Macronol. Biosci.誌に報告した。編集長から雑誌の表紙に採択されて高い評価を受けた。自然免疫リガンドの同時刺激が抗体産生に与える影響に関しても調べ、抗原徐放への影響に関して有力な仮説が得られた。本研究で用いているデポ化抗原は、デポ内に複数種の薬物の貯留が可能であり、トキソイド抗原とともにこれらアジュバント分子を添加したデポを低侵襲で容易に留置できる。有効成分の自由拡散により投与部位近傍に白血球が動員され、好中球が産生するエラスターゼによりデポが生分解されると、一過性に有効成分の局所濃度が上がり自然免疫と獲得免疫との局所での持続的同時刺激が可能となる。今後、本研究事業で得られた仮説を検証していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究計画調書に記載していたように、破傷風抗体価の高力価誘導および長期間維持に寄与する人工エラスチンの分子要因の統合的な解釈が可能となり、その一部を当該研究事業の成果として、学会発表および専門誌公開ができたことをその判断材料とした。
2019年の年末期に、新規に分子設計したいくつかの人工エラスチンに関して、ゲル形成と生分解性との関係性に新たな発見があり、これまでに得られている物性dataとの整合性を取るために、温度応答性およびゲルの力学強度についての追加実験が必要となった。これに関しては、日本学術振興会に補助事業期間延長承認申請書を提出し、承認が得られている。次年度の早い時期にこれらを実施してdataを取得・補充して本研究事業を完結させると共に、ワクチン基盤開発に資するサイエンスの1つとして、関連学会等に広く情報を発信する予定である。
当該事業の研究計画調書に明記した人工エラスチンの分子要因の系統的解析に関して、2019年12月に新たに得られたdataとの整合性を取る為に、温度応答性・力学強度について追加実験が必要となった。このため、この追加実験dataを含む成果発表(専門誌への論文投稿や学会発表)も含め、年度内にこれらの実施が困難な状況となった。したがって、未使用額を上述の経費に充てたく、2020年1月27日付で日本学術振興会に補助事業期間の延長を申請し、同年3月18日付けで承認を受けた。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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