研究課題/領域番号 |
17K08256
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
丹羽 敏幸 名城大学, 薬学部, 教授 (30198543)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 湿式ビーズ粉砕 / 液体窒素 / ドライアイス / コンタミレス / 難溶性医薬品 / シュガービーズ / 結晶混練 |
研究実績の概要 |
超低温粉砕(液体窒素中でのビーズ粉砕)を製薬産業における実際の製品開発に利用できる粉砕技術として提示することを研究目標とし,異物混入対策に取り組んだ.ビーズ素材として,常温・常圧下で昇華するドライアイス(固体二酸化炭素)を採用した. 前年度に見い出した液体窒素中での粒状ドライアイス(ドライアイスビーズ)の取得方法,ドライアイスビーズによる液体窒素中でのビーズ粉砕過程とその機構,結晶サイズや形状の異なる3種類の薬物結晶(フェニトイン,イブプロフェン,フェキソフェナジン塩酸塩)での粉砕事例につき研究成果をまとめ,国際誌への論文掲載を行い,新規なコンタミレス・ナノ粉砕技術として公表した.製薬会社からの評判はすこぶる高く,いくつかの引き合いがあった. しかし本コンタミレス超低温粉砕を医薬品産業での基幹技術として適用するには,粉砕粒子が水中においてナノサイズ分散する機能を保持していない点が不十分であることも明らかとなった.そこで本年度では,その対策として水溶性添加剤(造粒品や結晶)を粉砕ビーズとして利用し,ビーズを分別せずに粉砕品とともに回収し,添加剤の溶解に伴い粉砕1次粒子へと自発的に分散させることを企図し,研究を遂行した.具体的には, 1)粉砕ビーズとして糖やセルロースの市販添加剤球形粒(ノンパレル,セルフィア)を用いた超低温粉砕の開発,並びに 2)加圧ロールミルを用いた結晶混練法(Crystal kneading)によるビーズレス・ナノ粉砕技術の確立 へと研究を発展させている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分散媒として液体窒素,粉砕媒体としてドライアイスを用いることで,ビーズからの異物混入を発生しないコンタミレス・ナノ粉砕技術を確立し,国際誌への掲載という形で公表することができた.製薬会社からの注目は高く,共同研究へ向けて協議中の案件もある.一方で,超難溶性薬物の溶解改善効果は目標までには達しておらず,継続して検討を進めているのが現状である. 上記の「5.研究実績の概要」で示した 1)市販添加剤球形粒を用いた超低温粉砕の開発については,必ずしも硬質でない添加剤粒を用いても液体窒素中では薬物結晶がサブミクロン~シングルミクロン領域まで粉砕できることを見い出し,粒径・粉砕時間・撹拌速度等の条件を変動因子として設定した実験計画法にて最適条件の設定を図った.一方,2)糖や塩結晶による結晶混練法では,本年度の予算にて加圧ロールミルを新規に購入し,薬物結晶を塩類や糖類などの各種結晶とともに非水系分散媒に分散し,得られたペースト状の試料をロール隙間にて加圧粉砕した.水溶性高分子を配合した系では,薬物結晶の一部はサブミクロンサイズまで到達することを見い出した.分散媒としてグリセリン等の粘稠液体から得た粉砕物はペースト状を呈し,用事調製の軟膏剤としての適用を想定している. ただし,本研究課題のテーマである「アンダー100nmナノ粉砕」という目標にはいずれの方法でも達成しておらず,最終年度に取り組むべき課題が明らかになったものの,本研究はおおむね計画通りに進行していると捉えている.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度・本年度の研究遂行より課題として挙がった「アンダー100nmナノ粉砕」の達成へ向け,技術改良を図る.超低温粉砕では,これまで使用してきた回転盤による湿式撹拌法に加え,容器回転法,容器振動法を検討し,粉砕能力について評価する.通常,これらの装置は試料容器を密封した状態で運転するが,液体窒素の封じ込めができないため,圧力弁を備えた粉砕容器を自ら試作し,粉砕を遂行する。また空気中の水蒸気による結露対策も併せて検討する.運転に係る各種条件(回転速度・ビーズ仕込み量・粉砕時間・ビーズ径など)を調整し,更に微細な粉砕物の獲得を目指す.続いて,脆く粉々になり易いドライアイスや添加剤粒を粉砕ビーズとして用いた超低温粉砕の粉砕機構を解明するため,各種薬物結晶,及び各種ビーズの微小表面硬さをマイクロインデンテーション法にて測定する.この際、力学特性の温度依存性を評価するため,常温に加え液体窒素中での応力試験を実施し,医薬品粒子の低温脆性破壊,並びに各ビーズの超低温硬化特性を検証する.以上のように粉砕機構を力学的観点から解析し,一般には粉砕媒体として強度不足であると認識されるドライアイスビーズや添加剤粒でどのように粉砕が進行するかについて解明していく. 結晶混練法に関しては,糖・塩結晶からなる粉砕系にドライアイスビーズを共存させ,薬物結晶の低温脆性を促し,より微細な処方・製法を探索していく. これらの取り組みを総括し,コンタミレス・アンダー100nm粉砕技術を製薬産業におけるプラットホーム技術へと成熟させていく.
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