研究課題/領域番号 |
17K08257
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
小田 彰史 名城大学, 薬学部, 教授 (50433511)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 薬物代謝酵素 / 分子シミュレーション / 遺伝多型 |
研究実績の概要 |
平成29年度においては、シトクロムP450 (CYP) の複数の分子種について、遺伝多型によって生じた変異体の分子動力学 (MD) シミュレーションを行い、その立体構造および動的性質を評価した。CYPの遺伝多型については多数報告があるが、共同研究者が実験的に明らかにした、活性に特徴的な変化の現れる変異体を中心に検討を行っている。また分子種としては、同じCYPであっても認識する基質に大きな差異のあるCYP2C8とCYP2A6について、その基質認識部位の構造の違いを明らかにした。CYP2C8については基質認識機構についての検討も開始しており、複合体を形成した後の構造および動的性質についても調査した。またCYP以外にも、ジヒドロピリミジナーゼ (DHP) のMDシミュレーションを開始した。こちらについては立体構造の評価の段階であるが、活性部位にある亜鉛を含んだシミュレーションを行っており、安定なシミュレーションが実行できている。DHPについても多数の変異体における酵素活性が共同研究者によって報告されており、特徴的な活性を示した変異体についてMDシミュレーションを行っている。これらは実験的に立体構造が知られている酵素であるが、一方で立体構造が実験的に得られていない薬物代謝酵素としてはカルボキシルエステラーゼ2の立体構造予測およびMDシミュレーションを行っており、ヒトとイヌとの生物種差をタンパク質の立体構造および動的性質から推定した。また、これらの研究に使用しているMDシミュレーションの手法的妥当性についてもベンチマーク試験を行っており、変異体や予測構造に対するシミュレーションのための手法として妥当であることを担保しつつ計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
立体構造が実験的に得られている酵素については、野生型・変異型ともにMDシミュレーションを実行しており、変異によって代謝活性が変化する理由がおおむね推測できるところまで進展している。さらに当初2年目以降に予定していた基質認識の検討にも着手しており、非常に順調に研究が進展していると考えている。一方の立体構造が実験的に得られていない酵素についてもホモロジーモデリングによる構造予測と、構造評価および構造精密化のためのMDシミュレーションの両方を実行しており、こちらについても問題なく信仰している。手法論的な面においても、ベンチマーク試験によって信頼性を担保しつつ計算を行っており、十分な精度で順調に研究が進行しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの計算によって得られた、薬物代謝酵素の精密化された立体構造を用いて、その基質認識機構を検討する。平成29年度で既に複合体構造のシミュレーションに着手しているが、リガンドおよび系を取り巻く水分子などの挙動を追いつつ複合体形成機構を推定していく。これまでに活性ポケットの大きい分子種・小さい分子種、また比較的親水性のリガンドを認識する分子と疎水性のリガンドを認識する分子と、基質特異性に違いのある代謝酵素の立体構造について計算しており、これらに対して基質認識機構を調査することで酵素あるいは基質の性質に応じてどのように複合体形成に差があるかを明らかにする。特に水分子の役割については活性ポケットの大きさおよび性質が大きく影響することが予想されるため、様々な性質を持つ酵素を扱うことで明らかとなることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部のPCパーツの価格高騰により予定通りの設備を購入することが困難となり、比較的安価な設備を購入したためその差額が次年度使用額となった。次年度分と合わせることで計算機を購入することが可能となるため、次年度にこれを購入する予定である。
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