研究実績の概要 |
DSS誘発大腸炎の発症期に産生する亜硫酸由来ラジカルの産生機序を解析する目的で、硫酸エステル結合を切断するスルファターゼの関与について検討した。DSS (分子量5,000、硫黄含量18%)の5%水溶液を雄性5週齢ICRマウスに1,2,5,7日間自由飲水させた後に大腸を摘出し、大腸組織ホモジネートを調製した。大腸組織中スルファターゼ活性を市販キットで測定したところ、DSS飲水2日後より増加傾向が認められ、7日後まで持続していた。 哺乳類の大腸では、硫酸塩から3-ホスホアデノシン-5’-ホスホ硫酸(PAPS)合成酵素(PAPSS1, PAPSS2)の触媒でPAPSが産生され、PAPS還元酵素により亜硫酸塩が産生する経路が知られている。そこで、PAPSS1とPAPSS2のタンパク発現について検討した結果、PAPSS2の発現はDSS5日群で有意に増加していた(P<0.05)。 以上より、亜硫酸由来ラジカルの産生におけるスルファターゼやPAPS合成酵素が関与する可能性が示唆された。 また、マウスを用いてDSS誘発大腸炎の完成期(DSS飲水7日群)における亜硫酸由来ラジカルの産生について検討した。少量の亜硫酸ラジカル産生条件下、DSS飲水7日群の大腸ホモジネート試料とスピントラップ剤DMPOを添加し、生成した付加体をX-band ESR装置で測定したところ、DMPO/亜硫酸ラジカル付加体のESRシグナル強度は水道水群と比較し有意に増加していた(P<0.01)。一方、大腸組織中の硫酸塩や亜硫酸塩は水道水群と比較し有意差は認められなかった。大腸組織内のアスコルビン酸と還元型グルタチオンは水道水群と比較し有意に減少していた(各々P<0.01, P<0.05)。 以上より、DSS誘発大腸炎の発症期から完成期まで亜硫酸由来ラジカルが持続的に産生することが示唆された。
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