研究課題/領域番号 |
17K08265
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 弦太 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任講師 (10431892)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / LRRK2 / キナーゼ / Rab / リン酸化 / 小胞輸送 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、LRRK2によるリン酸化の細胞内局在を検討した。前年度に確立した、家族性パーキンソン病変異型(Y1699C)3xFLAG-LRRK2とHA-Rab10を恒常発現するHEK293A細胞(クローン41-4)を用い、LRRK2特異的阻害剤であるMLi-2処理の有無でRab10リン酸化Thr73特異抗体と、FLAGタグ抗体、HAタグ抗体の三重染色を行った。その結果、MLi-2非処理時にはRab10は核近傍に集まって局在し、MLi-2処理によりこれが細胞質のreticularな局在に変化した。Rab10 Thr73のリン酸化は、核近傍に集まって局在するRab10に一致して見られ、MLi-2処理により消失した。Rab10の核近傍の局在は、リソソームマーカーであるLAMP1と大部分が共局在し、MLi-2処理時のreticularな局在は小胞体マーカーであるPDIと大部分が共局在した。この結果は、Rab10の局在がLRRK2によるリン酸化によって制御され、リン酸化時にはリソソームに、非リン酸化時には小胞体に局在することを示唆している。 この細胞を用いて、LRRK2によるRab10のリン酸化を制御する遺伝子を網羅的にスクリーニングする実験系を立ち上げている。384ウェルプレートを用いて、41-4細胞にsiRNAを導入し、Rab10リン酸化Thr73特異抗体とHAタグ抗体で染色し、ハイコンテントイメージアナライザーで画像した。プレートのコーティングなどの条件検討を実施するとともに、新たに接着性の強いHeLa細胞を用いて同様の細胞株を作製している。 家族性パーキンソン病変異(R1441G)をヘテロ接合に保有するパーキンソン病患者から皮膚線維芽細胞を取得した。この細胞では内因性LRRK2の発現が低かったが、弱いながらRab10リン酸化が検出できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、R1441Gヘテロ変異ヒト皮膚線維芽細胞を取得し、内因性Rab10のリン酸化を検出した。これにより、平成29年度から持ち越された、当初計画の「ヒト由来サンプルにおけるRabリン酸化の検出」「PD患者由来サンプルおけるRabリン酸化の解析」を達成した。また、41-4細胞を用いた免疫細胞化学的解析から、Rab10が、LRRK2によるリン酸化依存的に、LAMP1陽性コンパートメントとPDI陽性コンパートメントを移動することを明らかにした。これにより、当初計画の「Rabリン酸化の小胞輸送に対する影響の解析」を部分的に達成した。さらに、当初計画の「LRRK2の活性制御因子の探索」について、LRRK2とRab10を共発現する細胞株を用いたゲノムワイドsiRNAスクリーニング系が確立されつつある。HEK293A由来のモノクローナル株である41-4細胞のみならず、HeLa細胞株も併用することで、クローン特異的な因子を排除することが可能であると考えられる。当初計画の「Rab結合タンパク質の探索」については、平成29年度にはAPEX2を用いた方法や、パラホルムアルデヒドによる架橋後に免疫沈降する方法を確立したが、BioID法がさらに改良されたTurboIDタグが報告された(Branon et al., Nature Biotechnology, 2018)ので、これについてもRab10、Rab29について試行した。APEX2タグが近傍のチロシンをビオチン化するのに対し、TurboIDタグは近傍のリシンをビオチン化する。APEX2とTurboIDを併用することで、より網羅性を高めることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Rab10がLRRK2によるリン酸化依存的に細胞内局在を変化させる分子メカニズムは不明である。今後は、Rab10の既知の活性制御因子(GAP、GEFなど)やエフェクタータンパク質をノックダウンすることで、Rab10の局在変化にどのような影響があるか解析する。また、APEX2やTurboIDを用い、Rab10の近傍タンパク質を網羅的に同定する。LRRK2によるリン酸化の有無で変化する近傍タンパク質を同定することができれば、局在変化の分子メカニズムに迫る手がかりになると期待される。このようにして同定された因子については、患者由来皮膚線維芽細胞においても同様の機能を有するか解析することで、病態形成への関与を明らかにすることができる。Rab29はLRRK2によりリン酸化されるが、一方でLRRK2を活性化することが明らかになっている。しかしながら、その分子メカニズムは不明である。また、Rab29の細胞内局在はtrans Golgi network(TGN)に限局しているが、そのメカニズムも明らかでない。そこで、Rab29についてもBioID法を適用することで、LRRK2活性化やTGN局在の分子メカニズムを明らかにする。 最近の研究で、LRRK2はリソソーム恒常性の維持に重要な機能を有することが明らかになりつつある(Eguchi et al., PNAS, 2018)。本研究課題でも、Rab10がLRRK2によるリン酸化依存的にリソソームに局在することを明らかにした。リソソーム恒常性の破綻は、様々な点でパーキンソン病との関連が指摘されており、パーキンソン病の分子病態解明の緒となる期待が高い。今後は、LRRK2がリソソームの形態や機能などの恒常性に与える影響も解析していきたい。
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