研究課題/領域番号 |
17K08266
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
平田 美智子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (40544060)
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研究分担者 |
宮浦 千里 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20138382)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 骨粗鬆症 / サルコペニア |
研究実績の概要 |
本研究の目的はロコモティブシンドロームを改善する組織選択的なアンドロゲン受容体作働薬の解析を行うことである。超高齢社会の到来により、老人性骨粗鬆症とサルコペニアの罹患者が増加している。男性ホルモンであるアンドロゲンが欠乏すると、骨量と筋量の低下をきたすことから、骨と筋に選択的に作用し、前立腺などへの副作用がない、組織選択的なアンドロゲン受容体作働薬(SARM)が求められている。 H30年度は、最先端の質量分析イメージングによる薬物動態の解析技術を駆使して、運動器由来の筋・骨格系疾患の検出法の基盤確立を行なった。新規カルボラン化合物BA321を用い、骨量低下・筋量低下モデル動物を用い筋と骨への作用の検討を行なうとともに、新規なBA321類縁化合物についても骨と筋への有効性に関する予備検討を実施した。マウスに精巣摘出を施すと同時に、BA321を投与し、生体用マイクロCTの3次元解析により計測した。脛骨・大腿骨の骨密度はDEXAを用いて定量化した。その結果、大腿骨量の生体用マイクロCTの3次元解析計測において、BA321投与群では大腿骨骨密度の回復が認められた。一方で、精嚢腺には作用せず、男性生殖器への作用を有さないことが明らかとなった。一方、これまで実施が難しかった、筋量の3次元解析計測においては、種々の解析方法を検討し確立することができた。 さらに、質量分析イメージングを用いた予備検討は成功し、BA321の骨と筋での動態を観察の基盤が確立された。これら運動器由来の筋・骨格系疾患では、低分子化合物の検出の成功例は少ないが、今年度のマトリックスのスクリーニング検討により進展した。これら類縁化合物の骨と筋への有効性に関する予備検討の解析の結果、BA321がSARMになり得る可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は、新規カルボラン化合物BA321を用い、組織選択的アンドロゲン受容体作働薬(SARM)としての効果を解析した。骨量低下・筋量低下モデル動物として、マウスに精巣摘出術(ORX)を施し、BA321を投与し、骨と筋への有効性を解析した。さらに、副作用検定として、精嚢腺への作用も調べ、生殖器がんリスクを評価した。さらに、質量分析イメージングを活用し、マウスに投与したBA321の骨と筋におけるドラッグデリバリー解析の基礎検討を行い、治療効果とBA321の組織内分布の関連を示す画像化を試みた。また、当初計画である、BA321の有効性の解析ならびに新規類縁化合物についても予備検討を実施した。 その結果、BA321は精嚢腺重量に影響を示さず、大腿骨骨密度の改善効果を示すことを見出したことから、BA321がSARMの候補化合物として有効である可能性が得られた。また、新規類縁化合物に対して骨量低下・筋量低下モデルマウスを用いた最適投与量での予備実験を実施した。 BA321の質量分析イメージングを用いた検出系の確立を目指した予備実験では、骨と筋でのドラッグデリバリー解析の画像化を計った。これら運動器由来の筋・骨格系疾患では、低分子化合物の検出の成功例は少ない。今年度は現在研究代表者が所有するマトリックスライブラリーより選択されたマトリックスを用いたのスクリーニング検討により、イオン化効率の上昇、高感度検出、ノイズ軽減を目指したスクリーニングを行なった。その結果、マトリックス可変によりステロイド化合物の質量分析イメージング検出への基盤構築に成功した。 本研究成果は平成31年度の本課題を円滑に進め、より前倒しの課題実施を可能とした。以上の理由により、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度の成果により、新規カルボラン化合物BA321は骨組織選択的なアンドロゲン受容体作働薬としての有効性が示唆された。H31年度は、主としてBA321が筋と骨に対して効果を示す、骨粗鬆症や筋萎縮(サルコペニア)に有効なSARMと成り得るかを立証する。具体的には、骨量低下・筋量低下モデルマウスを用いて、候補化合物を投与し、生殖がんのリスクを回避し、骨作用と筋作用を示すか否かを明らかとする。また、質量分析イメージングを活用した骨と筋におけるBA321のドラッグデリバリー解析を実施する。治療効果とBA321の組織内分布との関連を解明し、新規なコンセプトのSARMとしての新規治療薬の開発を目指す。 平成31年度は以下の実験系における投与実験を実施する。 (1)SARMとしての有効性を立証 マウスに精巣摘出を施すと同時に、BA321を投与し、脛骨・大腿骨量と下腿筋量を生体用マイクロCTの3次元解析により計測する。また、男性生殖器への作用として精嚢腺を重量計測し、組織切片の作製により病理学的に観察する。骨、筋、生殖器へのBA321の作用比較パネルを作成し、SARMとしての有効性を立証する。 (2)質量分析イメージングを活用した骨と筋におけるBA321のドラッグデリバリー 解析 マウスに投与したBA321の骨と筋でのドラッグデリバリー解析を行なうため、BA321の質量分析イメージングによる動態解析を行う。今年度確立したマトリックススクリーニングで得られた知見を活用し、イメージング解析を進める。さらに、定量的評価では、LC-MS解析を併用して骨と筋への集積量と分布を解析する。
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