研究課題/領域番号 |
17K08270
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高津 宏之 京都大学, 薬学研究科, 研究員 (70360576)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フリッパーゼ / phosphatidylserine / 極性細胞 / uropod / P4-ATPase |
研究実績の概要 |
生体膜のホスファチジルセリン(PS)フリッパーゼであるATP11Cの二つのアイソフォーム間の異なる制御機構を解明するにあたり、H29年度までに、ATP11C(a)がカルシウム依存性のPKCの活性化に伴い、細胞膜からエンドサイトーシスにより排除されることでダウンレギュレー ションされ、細胞膜でのPSフリッパーゼ活性が低下し、PSがより露出しやすい環境になることを明らかにし、論文として発表した(Nat Commun. 8(1): 1423 : 2017)。H30年度には、もう一つのアイソフォームであるATP11C(b)が極性を持った細胞で特徴的な局在を示すことを見出し、その極性局在をもたらすアミノ酸配列を同定するに至った。また、これらの研究過程で、新たなアイソフォームATP11C(c)がマウス脳にだけ特異的に高発現していることも明らかにした。ここまでの成果をまとめて現在、論文として投稿中である。さらに、ATP11C(b)のC末端と結合するタンパク質を酵母Two-Hybrid Systemでスクリーニングしたところ、Ezrinを同定した。Ezrinは、活性化型がATP11C(b)とよく似た極性局在を示し、細胞膜タンパク質とアクチン骨格を架橋し、様々な生理機能を有するタンパク質として知られている。ATP11C(b)の極性局在とその機能を考察する上で、Ezrinの特異的な結合の発見は重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的として示した5項目のうち3つ(ATP11C(a)および(b)の基本的性質の明示、 ATP11C(a)のC末領域におけるPKC感受性の要因の究明、ATP11C(b)の極性に関する研究)を明確に達成することができた。また、研究が新しい方向にも派生し、新たな展開をしつつある。しかしながら、その一方で、残りの2項目(2つのアイソフォームに起因した局所でのホスファチジルセリン露出の実証、2つのアイソフォームのバランス操作がもたらすPS露出の生理作用の解明 )は、漸進しつつある状態である。具体的には、Ba/F3細胞およびMDA-MB-231細胞においてCRISPR/Cas9 systemを用いてATP11Cノックアウト細胞を樹立した。それに続いてアイソフォームATP11C(a)もしくは(b)の単独発現細胞を樹立し、各々の機能を明確にするために、諸条件でのPS露出を始めとする様々な実験を行った。現在も鋭意進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところPS露出の実証実験については明快な結果を得られていない。PSフリッパーゼ活性の低下が本当にPS露出につながるのかどうかを是非明らかにしていきたいと考えている。また一方、ATP11Cの二つのアイソフォームの違いに焦点を当て、その制御機能の違いを明確に示していきたいと考えている。これまでの研究成果からATP11C(b)が極性をもった局在を示すこと、そのC末領域にEzrinが特異的に結合すること、が新たに分かった。Ezrinは細胞膜タンパク質をアクチン骨格を架橋することで、その機能を発揮することから、極性局在と細胞運動の関係性を重点的に探っていきたいと考えている。ATP11Cノックアウト細胞をもとにしたATP11C(a)もしくは(b)単独発現細胞は樹立できているので、今後、その細胞を用いた解析を進めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29および30年度は、当初の想定よりも実験がスムーズに進み、消耗品のロスがかなり少なくて済んだ。細胞培養関連、生化学関連ともに節約できた。また、平成31年度の実験で、比較的高額な試薬を用いることが想定されるため、あらかじめ繰り越しをある程度見込んでいた。具体的な使用計画として、細胞のホスファチジルセリンの露出の検出実験を集中して行うため、蛍光標識したAnnexin-Vを多めに購入する必要が生じると考えられる。また、ATP11Cの2つのアイソフォームと結合するタンパク質をスクリーニングするため、より大規模に消耗品が必要となることが想定される。また実験結果に応じて、特定のタンパク質に対する抗体を複数購入して試してみたいと考えている。
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