研究課題
遺伝性結合組織疾患エーラス・ダンロス症候群(EDS)は,患者の関節や筋肉に慢性疼痛をもたらし,著しくクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を低下させる.本研究は,まず,EDSの原因遺伝子の一つであるテネイシンX(TNX)に着目し,TNX欠損に起因するEDSの慢性疼痛発症メカニズムを明らかにすることとした.ヘマトキシリン・エオジン染色法を用いてTNX欠損マウスの腱や靭帯,筋肉の結合組織の構造的変化を詳細に観察した.しかしながら,膝関節部,足関節部,足指部のいずれにおいても,腱や靭帯,筋肉に構造的異常は見られず,また,関節の痛みに関連する他の部位(軟骨,滑膜,骨膜等)にも大きな構造的異常を見出すことは出来なかった.さらに,これらの結合組織におけるマクロファージ等の炎症細胞の浸潤も観察することは出来なかった.次に,我々は本研究計画以前にTNX欠損マウスの坐骨神経において血管数が減少することを観察していたことから,この血管数の減少が慢性疼痛に関与するのか否かを検討することにした.TNX欠損マウスの坐骨神経おける血管数についてさらに詳細に調べたところ,TNX欠損マウスでは坐骨神経の血管数が18.6%減少していることがわかった.逆に,血管の径はTNX欠損マウスで17.0%増大していた.そこで,TNX欠損マウスの坐骨神経は虚血状態にあり,その虚血状態が痛みと関連するのか否かを明らかにするために,低酸素状態で誘導されるHIF-1αの発現レベルを調べた.しかしながら,HIF-1αは殆ど発現誘導されていないことがわかった.これらの結果から,TNX欠損マウスの坐骨神経の血管数の減少は,痛みを引き起こすような大きな虚血状態を引き起こすわけではないと考えられた.
2: おおむね順調に進展している
EDSの原因遺伝子の一つであるTNXに着目し,TNX欠損マウスの膝関節部,足関節部,足指部の構造を詳細に調べ,TNX欠損マウスの腱や靭帯,筋肉などの結合組織に大きな構造的異常がないこと,そして,マクロファージ等の炎症系細胞の浸潤がないことを示した.一方で,坐骨神経においてはTNX欠損マウスの血管数が減少すること,逆に血管の径は増大することを見出した.従って,全体的に本研究は実施計画に基づきおおむね順調に進展していると判断した.
遺伝性結合組織疾患EDSは,患者の関節や筋肉に慢性疼痛をもたらし,著しくQOLを低下させる.TNXはEDSの原因遺伝子の一つであるが,我々は,現在までにTNXと関節や筋肉における慢性疼痛との関連性を見出すに至っていない.一方で,EDSの筋組織における慢性疼痛を引き起こす要因としては,傷害を受けた筋再生能力が十分でないことが可能性の一つとして挙げられる.従って,筋組織の筋分化・筋再生メカニズムを解明することは,EDS患者の筋肉における慢性疼痛発症メカニズムを明らかにする上で重要であると考えられる.以前,脂質代謝酵素の一つであるジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)のζアイソザイムは筋分化を制御することが示され,我々もまた,II型DGKのδアイソザイムが筋組織に高発現すること,そして,筋分化を正に制御することを示した.さらに,II型DGKのηアイソザイムも筋肉に発現していたことから,我々は,II型DGKアイソザイムが筋分化制御のために重要な役割を担っていると考えている.従って,本年度以降は,II型DGKアイソザイム(δ及びη)が制御する筋分化制御機構を細胞レベルで詳細に解明し,且つそれぞれの機能を包括的に理解する.さらに,筋肉に高発現するTNXとDGKδ及びDGKηとの関連性を細胞レベル・個体レベルで調べ,TNXが関与する筋分化制御機構を明らかにする.さらに,TNXとDGKδあるいはDGKη欠損マウスを用いることで,筋再生メカニズムを解明し,TNXに起因するEDSの筋肉における慢性疼痛発症メカニズムを明らかにする.
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