研究課題/領域番号 |
17K08271
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
堺 弘道 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (00375255)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エーラス・ダンロス症候群 / テネイシンX / ジアシルグリセロールキナーゼ / 関節 / 筋肉 / 筋分化 / 増殖 / 慢性疼痛 |
研究実績の概要 |
遺伝性結合組織疾患エーラス・ダンロス症候群(EDS)は,患者の関節や筋肉に慢性疼痛をもたらし,著しくクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を低下させる.EDSの筋組織における慢性疼痛は,要因として傷害を受けた筋肉の再生能力が十分でないことが考えられ,従って,筋組織と筋細胞の増殖・分化・再生メカニズムを解明することは,EDS患者の筋肉における慢性疼痛発症メカニズムを明らかにする上で重要である.最近,我々は脂質代謝酵素ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)のII型(δ, η, κ)に属するアイソザイムδは筋分化を制御することを示した.さらに,DGKηも筋細胞に発現していたことから,我々は,II型DGKアイソザイムが筋組織と筋細胞の増殖・分化・再生のために重要な役割を担っていると考え,本年度はDGKηの筋細胞における機能を調べた. DGKηの筋細胞における機能を明らかにするために,筋芽細胞の増殖及び分化過程におけるDGKηの発現変化を調べたところ,DGKηは増殖時で高発現すること,そして,その発現は分化24時間後には抑制されたことから,DGKηは筋芽細胞の増殖,もしくは,分化の早い段階に重要な役割を担う可能性が考えられた.そこで,C2C12筋芽細胞の増殖時のDGKηの発現をsiRNAにより抑制したところ,細胞のタンパク量と数が減少し,さらに,エネルギー産生に重要なGAPDHと細胞骨格の主要構成成分であるβ-tubulinとβ-actinの発現量も減少することがわかった.これらのことから,DGKηは筋細胞の細胞内代謝や増殖などの細胞活動を制御すると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EDSの筋組織における慢性疼痛の発症機序を明らかにするために,DGKに着目し,DGKηはC2C12筋芽細胞の増殖時で高発現すること,そのDGKηの発現抑制は細胞のタンパク量と数の減少と,エネルギー産生に重要なGAPDHと細胞骨格の主要構成成分であるβ-tubulinとβ-actinの発現量を減少させることを示した.このように,本年度も幾つかの新たな知見を得ることが出来たことから,本研究は実施計画に基づきおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
遺伝性結合組織疾患EDSは,患者の関節や筋肉に慢性疼痛をもたらす.本年度の筋組織と筋細胞の増殖・分化・再生メカニズムの解明に焦点を当てた研究により,DGKηが筋細胞のmTORの発現あるいは安定化に関わることで,エネルギー産生に重要なGAPDHと細胞骨格の主要構成成分であるβ-tubulinとβ-actinの発現量を調節し,筋細胞の細胞内代謝や増殖などの細胞活動を制御することを示した.一方で,昨年度の研究においては,EDSの原因遺伝子の一つであるTNXと関節や筋肉における慢性疼痛との関連性について検討を行い,坐骨神経におけるactin量が大幅に減少することを見出した.従って,筋肉に発現するTNXとDGKηがどのように連関することで,筋細胞のactin量を調節し,細胞増殖を制御するのかを明らかにすることは興味深い.そこで,今後は,DGKηの筋組織と筋細胞の増殖・分化・再生における機能をさらに詳細に調べ,さらに,TNXとDGKδ及びDGKηとの関連性を細胞レベル・個体レベルで解明し,TNXとDGKに起因するEDSの筋肉における慢性疼痛発症メカニズムを明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の予算については概ね研究計画通りに執行したが,抗体などの消耗品の幾つかについては予定よりも若干安く購入することが出来た.次年度の使用額はわずかではあるが,研究の円滑な推進のための消耗品類の購入に使用する.
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