研究実績の概要 |
遺伝性結合組織疾患エーラス・ダンロス症候群(EDS)は,患者の関節や筋肉に慢性疼痛をもたらし,著しくクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を低下させる.EDSの筋組織における慢性疼痛は,要因として傷害を受けた筋肉の再生能力が十分でないことが考えられ,従って,筋組織における増殖・分化・再生メカニズムを解明することは,EDS患者の筋肉における慢性疼痛発症メカニズムを明らかにする上で重要である. 脂質代謝酵素ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)はシグナル脂質ジアシルグリセロールをホスファチジン酸に変換する酵素であり,様々な生理機能を制御することが分かってきている.最近,我々はII型(δ, η, κ)に属するアイソザイムδはC2C12筋芽細胞の筋分化を制御することを示した.さらに,前年度までに,DGKηはC2C12筋芽細胞の増殖時で高発現すること,そして,その発現は分化24時間後には抑制されたことから,DGKηは筋芽細胞の増殖,もしくは,分化の早い段階に重要な役割を担う可能性が考えられた. 本年度においては,DGKηのC2C12筋芽細胞における更なる機能解析を行った.C2C12筋芽細胞のDGKηの発現をsiRNAにより抑制したところ,細胞増殖が抑制された.さらに,DGKηの発現抑制は,細胞増殖を制御するmTORとmTORが制御する脂肪酸合成酵素(FASN)の発現量を減少させた.一方で,mTORの発現抑制は,細胞数とFASNの発現量を減少させ,さらに,DGKηの発現量をも低下させたことから,DGKηはmTORと相互制御関係にあり,細胞増殖制御のためにmTORの発現量を調節することが示唆された.さらに,mTORC1の構成因子であるraptorの発現抑制はFASNの発現量を減少させたことから,DGKηは細胞増殖制御のために,特にmTORC1を介してFASNの発現量を調節すると考えられた.
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