研究課題/領域番号 |
17K08272
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高杉 展正 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (60436590)
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研究分担者 |
橋本 唯史 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任准教授 (30334337)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / リピッドフリッパーゼ / アミロイドβ |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)発症機構として、脳内にアミロイドβペプチド(Aβ)が増加・蓄積することが原因とするアミロイド仮説が有力である。一方、アミロイド仮説に基づいた根治療法の開発は頓挫を続けている。その理由として、Aβの蓄積時点では副次的な細胞障害が起こっているため、アミロイド仮説による治療法のみでは有効でない可能性が考えられている。 そのため、Aβの蓄積以前に起こる小胞輸送障害をAD発症原因とする「交通渋滞」仮説が注目されている。これまでに、Aβの前駆体であるβCTF(βセクレターゼ切断性カルボキシ末端断片)が患者脳に蓄積し、小胞輸送を障害することが要因として示唆されているが、その詳細な機構は未解明であった。 当研究グループはβCTFと結合し、小胞輸送障害を誘導する因子としてTMEM30Aを同定している。TMEM30Aは、リン脂質の脂質二重膜における不均衡性を維持する脂質輸送酵素フリッパーゼの構成分子であり、小胞輸送の制御に関わる事が知られている。 本研究ではβCTFによるリピッドフリッパーゼの活性変化に着目し、AD病態とリピッドフリッパーゼ活性の相関性、AD特異的輸送障害を改善できる新たな治療ターゲットの創出を目標として解析を行っている。 本年度は、①βCTFに特異的な領域であるAβ配列が、βCTFの産生・局在を制御する重要な領域であること、②またTMEM30AがAβ領域を介してβCTFと結合することにより小胞輸送障害を誘導することを見出し、それぞれ海外学術誌に発表した。さらに解析を進め、リピッドフリッパーゼの活性測定法、小胞輸送障害を定量的に解析する手法を開発するとともに、TMEM30AのAβ結合領域由来のペプチドTRAPが小胞輸送障害を改善しうることを明らかにした。これらの成果により小胞輸送障害のメカニズム解明・治療法開発に寄与できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TMEM30AとβCTFによる小胞輸送障害について明らかにし、海外学術誌に発表を行った。さらに研究を進め、リピッドフリッパーゼの活性や、小胞輸送の効率をSplit luciferase法により定量的に測定する技術の開発に成功しており、今後AD発症メカニズムにおけるリピッドフリッパーゼ活性関連性の解析が効率的にできるようになった。本技術はリピッドフリッパーゼ活性の関与する多くの関連疾患の治療にも有用であると考えている。 海馬切片培養を用いた輸送障害モデルの開発の進行が遅れており、今後、現在同定した遺伝子・化合物のAD治療効果について明らかにする必要があるが、解析系の効率化を進めることができたことから、概ね申請時の計画通りに進行しており、順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
リピッドフリッパーゼ解析系のさらなる評価を行い、さらにAβの産生・神経機能への影響の解析を進め、リピッドフリッパーゼとAD発症メカニズムの関連性の解明を行う。 またリピッドフリッパーゼ以外のメカニズムが関与するのか、輸送小胞においてβCTFと結合する新たな因子のスクリーニングを行う。 脳の構造を反映した検討が可能である海馬切片培養系を用いて、開発したリピッドフリッパーゼ活性・小胞輸送障害測定系の応用により、AD病態を反映したモデル系の確立に注力するとともに、AD特異的な輸送障害を改善できるペプチド製薬・小分子化合物の探索を行う。
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