研究課題
申請者は中枢神経系における甲状腺ホルモンの機能と、その機能異常による神経・精神症状に注目してきた。甲状腺機能異常症と神経・グリア連関、性ホルモンと加齢の影響について、その分子基盤は殆ど解明されていない。そこで、申請者は、神経内分泌学ならぬグリア内分泌学という新たな研究領域の開拓を始め、注目を浴びている。これまでに、甲状腺ホルモンがグリア細胞や神経スパインに及ぼす影響を見るために、甲状腺機能亢進症を主に対象としていたが、加齢によって増える甲状腺機能異常は殆どが低下症であり、高齢化社会で増えるウツや認知症には、甲状腺機能低下症が大きく関わっている。従って、ウツや認知症の予防・治療のために、甲状腺機能低下症モデルを作成して、脳の機能形態学的変化、行動や認知に及ぼす影響とそのメカニズムについて研究を遂行している。甲状腺機能低下症がもたらす行動・認知機能変化:雄・雌の、若齢・老齢のモデルマウスを作成し、行動量・認知機能を観察し、脳内グリア細胞の形態を免疫組織学的に解析した。また、脳内でもっとも数が多い細胞であるアストロサイトは神経細胞に栄養を与える重要な役割をもっており、脳内代謝のカギを握っていると考えられることから、代謝に大きな影響を与える甲状腺ホルモンの影響を大きく受けると考えられる。甲状腺ホルモンによるアストロサイトの遺伝子発現変化はスペインのJuan Bernalらのグループが網羅的解析を報告したが、各タンパク質の機能変化については報告がない。そこで、初代培養アストロサイトを用いて、甲状腺ホルモンの輸送を担うトランスポータの発現を観察し、ホルモン分泌のネガティブフィードバック機構を説明できる現象を見出した。
2: おおむね順調に進展している
1)甲状腺機能低下症モデルマウスにおけるグリア細胞の免疫組織せ染色:若齢では、オスでグリア細胞の肥大化が観られ、メスでもわずかな肥大が見られた。2)甲状腺機能低下症モデルマウスの行動変化;オスでは行動量の減少が見られ、メスでは特に変化はなかった。認知機能について調べるため、老齢マウスを用いてモリス水迷路テストを行ったところ、1年齢のマウスは泳がない可能性を心配していたら、若齢マウスよりも上手く、目的地へも早く到達することが判明したことから、マウスの1年齢は老齢ではないことが判明。現在、2年齢になるまでマウスを飼育中である。3)アストロサイトからT3が放出するためのトランスポーターLAT2は、膜に局在する量がT3の作用で減少し、細胞外T3による脳内甲状腺ホルモン分泌のネガティブフィードバックの機構を説明できる結果が得られた。以上のように、甲状腺機能低下症の老齢マウスにおける解析が残っているが、細胞レベルでの甲状腺ホルモントランスポーターの挙動がわかる等、あらたな機能解析が進んでいるため。
甲状腺機能低下症の老齢マウスを用いて、グリア細胞の形態変化および神経スパインの形態変化を解析する。また、認知機能も調べ、性差の有無、ヒトとの対応性を検討する。性ホルモンの影響も視野に入れ、メスマウスで見られる若齢とは逆のグリア細胞の形態変化や、認知機能の変化が、女性ホルモン(エストロゲン)補充で改善するのかどうかを検討する。改善しない場合は、単なる女性ホルモン低下の影響ではなく、エピジェネティックな原因を探る必要が出てくる。
次年度に繰り越して使用するため。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Int J Mol Sci.
巻: 20(4) ページ: 1-17
10.3390/ijms20040941
Front Psychiatry
巻: 9 ページ: 1-6
10.3389/fpsyt.2018.00589
Front Mol Neurosci.
巻: 11 ページ: 2-2
10.3389/fnmol.2018.00407
Rev Neurosci.
巻: 29(5) ページ: 567-591
10.1515/revneuro-2017-0092
Vitam Horm
巻: 106 ページ: 313-331
10.1016/bs.vh.2017.05.005.
http://seiri.phar.kyushu-u.ac.jp/index.html