研究課題/領域番号 |
17K08278
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
松永 俊之 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (80306274)
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研究分担者 |
井口 和弘 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (10295545)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アルドケト還元酵素 / 抗がん剤耐性 / 大腸がん |
研究実績の概要 |
昨年度に樹立した2種の大腸がん細胞(DLD1とLoVo)と1種の胃がん細胞(MKN45)の抗がん剤 (イリノテカンやイリノテカン活性代謝物SN38、パクリタキセル、5-フルオロウラシル) 耐性株におけるNrf2の活性化の有無をウェスタンブロット法にて調べたところ、いずれの耐性株においてもNrf2の恒常的活性化が認められた。Nrf2活性化機序を調べるために、4種の抗がん剤処理による活性酸素種 (ROS) とその脂質過酸化産物 (ヒドロキシノネナールなど) の生成量を測定した結果、抗がん剤によって程度は異なるがそれらの生成量はいずれの場合も増加した。また、抗がん剤耐性化に伴うNrf2の恒常的活性化の程度はそのROS産生量と正の相関を示したことから、抗がん剤によるROS産生の亢進がNrf2の恒常的活性化の主因であると示唆された。昨年度に調製したAKR1B10またはAKR1C3過剰発現細胞の4種の抗がん剤に対する感受性は非耐性細胞より低く、それら酵素の発現抑制細胞の抗がん剤感受性は高かったことから、これら酵素の高発現が消化器がん細胞の抗がん剤耐性において主要な役割を果たすと考えられた。 上記3種の消化器がん細胞の抗がん剤耐性化による4種のABCトランスポーターアイソフォーム (ABCB1、ABCC1、ABCC2とABCG2) の発現変動をウェスタンブロット法にて調べたところ、4種のアイソフォームのうちABCB1の発現上昇が顕著であり、ABCB1阻害剤ベラパミルでの前処理は抗がん剤感受性を有意に高めた。また、抗がん剤耐性化はABCB1の基質であるローダミンの細胞外への排出を促進した。さらに、Nrf2活性化剤スルフォラファンでの前処理はABCB1の発現と機能を亢進したことから、Nrf2の恒常的活性化はABCB1の発現誘導を介して抗がん剤耐性化において重要な役割を果たすと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に調製した抗がん剤耐性細胞を用いてほぼ予定通りに実験を進めることができた。本年度中の実施を予定していたABCトランスポーターの発現機序について全て網羅することはできなかったが、抗がん剤耐性化におけるABCB1の意義等についても検証できたため、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は抗がん剤耐性細胞を用いてNrf2以外のABCB1発現誘導機序を探索する。また、抗がん剤耐性化と代謝の関連性を明示すべく、イリノテカンやSN38を用いて耐性細胞と非耐性細胞中の代謝物量をLC/MS/MS法にて定量する。さらに、既存のAKR (AKR1B10とAKR1C3) 阻害剤やABCB1阻害剤による抗がん剤耐性克服効果の検証を行う予定である。可能ならば、他の抗がん剤耐性に対する交叉耐性の有無やそれら阻害剤による交叉耐性克服効果についても調査したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ABCトランスポーターの発現変動機序に関する検討のうち、Nrf2活性化の関与は示すことができたが、それ以外の性ホルモン受容体の関与については解明できなかったため、その実験において使用する培養細胞関連消耗品と検出試薬が残額として生じた。本内容については平成31年度に遂行する予定である。
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