前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration; FTLD)は、反社会的行動を伴う神経変性疾患であり、認知症のなかでは、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症に次いで罹患者が多い。近年、FTLD患者脳における変性神経細胞では、核内や細胞質内に過度にリン酸化・ユビキチン化の修飾を受けたRNA結合蛋白質TDP-43を含む凝集体が蓄積することが判明し、FTLD-TDPと分類されているが、TDP-43の蓄積機構や神経変性機序はその多くが不明である。これまでに 家族性FTLDの原因となる変異型TDP-43を発現させたモデル動物は作製解析されているが、家族性FTLD患者はむしろまれであり、9割を占める孤発性のFTLDでは、変異型TDP-43が蓄積するわけではなく野生型TDP-43が蓄積する。また認知症は加齢に伴う変性疾患であることを考慮し、我々は孤発性FTLD-TDPのモデル動物として、野生型ヒトTDP-43を過剰発現させたマウスを作製し、加齢に伴う変化を探索した。 我々の作製したTDP-43を主に神経系に過剰発現させたトンラスジェニックマウスは、恐怖条件付け学習試験での異常と軽度の四肢機能異常を呈したため、孤発性FTLD-TDPのモデルマウスとして適切であると判断した。記憶障害をもたらす機構の解明のため、海馬領域での異常を免疫組織学的に解析したところ、当FTLDTDP疾患マウスでは、p62陽性ポリユビキチン陽性パルブアルブミン陽性の微小構造体が多数観察された。この微小顆粒はパルブアルブミン陽性であることから、 抑制性介在ニューロンの死骸であることが示唆された。以上よりTDP-43の異常発現により抑制性介在ニューロンの変性死が起こること、FTLD-TDP発症機構に抑制性介在ニューロンの変性死が関与する可能性が示唆された
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