研究課題/領域番号 |
17K08282
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
西塚 誠 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (00363953)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脂肪細胞分化 / インスリンシグナル / カリウムチャネル |
研究実績の概要 |
現在、糖尿病患者数増加が世界規模で問題となっており、特にインスリン抵抗性惹起を伴うII型糖尿病に対する有効な創薬開発には、肥満の原因となる脂肪細胞の分化、肥大化の分子機構に加え、成熟脂肪細胞におけるインスリン抵抗性惹起の分子機構を解明することが重要である。しかしながら、各種カリウムチャネルがどのような分子機構で制御しているのかについては未だ不明である。 昨年度までの検討により、KCNA1やKCNJ11など複数のカリウムチャネルの発現は、高脂肪食を負荷したマウスの白色脂肪組織において有意に低下する一方、Ca2+活性化K+チャネルIK1などはその発現が増加すること、さらに、IK1が、脂肪細胞分化初期に発現が増加することなど新たな知見を得た。 本年度は、脂肪細胞分化初期に発現が増加するIK1に着目し、脂肪組織ならびに脂肪細胞分化における役割とその機能について検討を行った。まずob/obマウスの内臓脂肪組織および皮下脂肪組織におけるIK1の発現を検討した。その結果、IK1の発現は正常マウスと比較し、肥満マウスの内臓脂肪組織において高く、逆に皮下脂肪組織では低いことが明らかになった。また、内臓脂肪組織の前駆脂肪細胞を含むSVF画分に高発現しており、成熟脂肪細胞を含むadipocyte画分における発現は極めて低かった。 前駆脂肪細胞株3T3-L1を用いた検討により、脂肪細胞分化過程におけるIK1の発現はインスリンにより強く誘導されることが示された。次に、IK1を標的としたsiRNAを用いた検討を行った。細胞の形態観察ならびに各種マーカー遺伝子の発現の検討から、IK1の発現抑制により脂肪細胞分化が促進されることがわかった。これらの結果より、脂肪細胞分化初期に発現が増加するカリウムチャネルIK1は脂肪細胞の分化を抑制する機能を有することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の検討により、IK1の脂肪組織を中心とした生体内の発現分布に加え、発現抑制系を用いた検討により、IK1が脂肪細胞分化を負に制御する機能を有することを明らかにすることができた。今後、過剰発現系を用いた検討と脂肪細胞分化過程における機能を明らかにする必要があるが、脂肪細胞分化におけるIK1の役割の一端を解明できたのではないかと考えるため、概ね目標通りの進展であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずIKの脂肪細胞分化初期における機能を明らかにする。近年カリウムチャネルの多くが細胞内シグナル伝達系の制御を介して細胞増殖や分化に影響を与えていることが明らかになってきたことから、脂肪細胞分化に寄与するシグナル伝達系に特に注目して検討を進める。また、昨年度までの検討により脂肪細胞分化過程で発現が変動することが明らかになったカリウムチャネルについても発現抑制系ならびに過剰発現系を用いた検討により、脂肪細胞分化における役割を明らかにし、さらに、その詳細な機能メカニズムの解明をめざす。また、様々なタンパク質と相互作用することがわかっているKCNMA1のC末端領域の役割と発現調節機構についても検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
脂肪細胞を用いた検討が予定より順調に進み、細胞培養に関連する経費を削減することができた。次年度は、株化ならびに初代前駆脂肪細胞を培養する実験に使用する。
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