現在、糖尿病患者数増加が世界規模で問題となっており、特にインスリン抵抗性惹起を伴うII型糖尿病に対する有効な創薬開発には、肥満の原因となる脂肪細胞の分化、肥大化の分子機構に加え、成熟脂肪細胞におけるインスリン抵抗性惹起の分子機構を解明することが重要である。しかしながら、各種カリウムチャネルがどのような分子機構で制御しているのかについては未だ不明であった。 そこでまず、高脂肪食を負荷し肥満を呈したマウスの白色脂肪組織、さらに、前駆脂肪細胞株3T3-L1の脂肪細胞分化過程において、どのようなカリウムチャネルの発現が変動するか検討した。その結果、電位依存性KCNA1、内向き整流性KCNJ11 、Ca2+活性化K+チャネルIK1など複数のカリウムチャネルの発現が変動することを明らかにした。次に、脂肪細胞分化初期に発現が増加するIK1に着目し、さらに検討を進めた。IK1の発現は正常マウスと比較し、肥満マウスの内臓脂肪組織において高く、逆に皮下脂肪組織では低いこと、さらに、脂肪細胞分化過程におけるIK1の発現はインスリンにより強く誘導されることが明らかになった。 さらに、脂肪細胞分化過程におけるIK1の役割とその機能について検討した。IK1を標的としたsiRNAを用いた検討の結果、IK1の発現抑制により脂肪細胞分化が促進されることがわかった。逆に、IK1を過剰発現することによって、脂肪細胞分化が抑制された。これらの結果より、脂肪細胞分化初期に発現が増加するカリウムチャネルIK1は脂肪細胞の分化を抑制する機能を有することが明らかになった。さらに、IK1はSmad3やCREBなどの細胞内シグナル伝達系の制御にも寄与していることを明らかにした。以上の結果より、カリウムチャネルIK1は、脂肪細胞分化の制御を介して、肥満形成やインスリン抵抗性の制御に関与する可能性が示唆された。
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