研究実績の概要 |
H30年度は Tripartite synapseにおけるα1,6フコースの役割を明らかにするため、アストロサイトとミクログリアにおけるα1,6フコースの機能を検討した。 α1,6フコースは脳組織に最も高く発現している。α1,6 フコース転移酵素(Fut8)を欠損させたマウスは、異常なホッピング、認知機能及び海馬ニューロンの長期増強(LTP)の減弱を示した。今回、LTPの減弱と深く関わる脳内の炎症反応や免疫系に注目して解析を行った。Fut8欠損マウスの脳組織をミクログリアのマーカー抗Iba1抗体で染色したところ、野生型よりミクログリアのサイズ・数ともに有意に増加していた。また、リポ多糖(LPS)を腹腔内に投与するとFut8欠損マウスは野生型マウスより感受性が高まっていた。ミクログリアの細胞株BV2細胞を炎症性サイトカインIFN-γで刺激するとα1,6フコースの発現が濃度依存的に増加した。さらに、IFN-γによるiNOSの発現誘導において、野生型よりFut8欠損BV2細胞のほうがより顕著であった。ミクログリアとともにアストロサイトも、炎症メディエーターや炎症促進性サイトカインを産生するので、C6グリオブラストーマ細胞を用いて検討したところ、野生型よりFut8欠損C6細胞のほうがIL-6/STAT3 シグナル伝達経路が活性化されることがわかった。現在、初代培養アストロサイトを用いた検討を行っている。 以上の結果は、α1,6フコースはグリア細胞の活性化の抑制に働くことや、Fut8欠損マウスの脳神経に見られる障害は、ニューロンだけではなくグリア細胞の機能異常に起因したものであることを強く示唆している。
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