過酸化脂質の還元酵素であるGPx4(リン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ)の心臓特異的GPx4欠損マウスは、胚発生過程の17.5日で致死となるが、母親にビタミンE過剰食を与えるとレスキューでき、レスキューできた乳児を離乳する際に、通常食(ビタミンEの低下食)にもどすと約15日で、心筋細胞に脂質酸化を伴う心臓突然死をおこすことを明らかにしてきた。我々は、さらにこれまでにこの脂質酸化依存的心臓突然死を抑制する薬剤をスクリーニングしたところ、抗酸化活性をもたない抗生物質Aが心臓突然死を抑制できることを見出した。抗生物質Aは飲水投与では効果を示すが、腹腔投与では効果を示さないことから、腸内細菌の関与が示唆された。実際、無菌マウスおよび抗生剤4剤合剤により前処理によって擬似無菌状態にしたあとに、抗生物質Aを飲水投与しても致死の抑制効果がキャンセルされたことから、抗生物質A処理で生き残った腸内細菌が心不全の抑制効果に関与していることが示唆された。そこで次世代シークエンサーにより抗生物質A処理による腸内細菌の変化を調べたところ、1種類の属の腸内細菌Zに変化していることを見い出した。本年度は、まずこの腸内細菌Zが単離できるのかについて解析し、単離培養することに成功した。次にこの単離腸内細菌Aを擬似無菌マウスに移植することにより、心不全を抑制できるのかについて検討した。抗生物質4剤合剤の前処理後に、抗生物質A飲水投与と同時にゾンデで腸内細菌Zを経口移植するとビタミンE低下による心突然死を30日以上抑制できることが明らかとなった。このことから、この腸内細菌Zは脂質酸化を起因とする心筋細胞死を抑制する機能をすること、また心臓機能を腸内細菌が制御できることをはじめて見出した。
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