研究課題/領域番号 |
17K08286
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
多胡 めぐみ 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 准教授 (30445192)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 慢性骨髄増殖性腫瘍 / JAK2V617F変異体 / EpoR / EpoR結合分子 |
研究実績の概要 |
慢性骨髄増殖性腫瘍 (MPN) の患者で同定されるチロシンキナーゼJAK2の点変異体は、エリスロポエチン受容体 (EpoR) との共発現により活性化され、細胞増殖や腫瘍形成能を誘導する。これまでに、私達は、JAK2変異体による細胞増殖や腫瘍形成には、EpoRの3個のチロシン残基 (Y343, Y460, Y464) のリン酸化が協同的に機能することが必要であることを見出している。したがって、JAK2変異体が示す形質転換能に必須であるEpoRの3か所のチロシン残基のリン酸化を介して結合する分子は、JAK2変異体による発がんシグナルの実行因子として機能する可能性が高い。本研究では、JAK2 変異体が示す形質転換能に必須である EpoRのリン酸化を介して形成されるシグナル分子複合体の実体を解明し、EpoRに結合する分子の発がん誘導機構を解析することにより、MPNの発症機序を理解することをめざす。 本年度は、JAK2変異体発現Ba/F3細胞において、EpoRの3箇所のチロシン残基に特異的に結合する分子の同定を行った。EpoRおよび全てのチロシン残基を置換した8YF変異体、Y343、Y460、Y464以外のチロシン残基を置換した5YF変異体のC末端側にFlagタグを付加したコンストラクトを作製し、レトロウイルス感染により、JAK2変異体と共に、マウス血球細胞 Ba/F3細胞に発現させた。細胞溶解液を調製後、抗FLAG抗体で免疫沈降を行い、FLAGペプチドを用いてタンパク質複合体を回収後、質量分析法によりEpoR 複合体の構成タンパク質を同定した。その結果、EpoRの3箇所のリン酸化に依存して結合する分子として16種類のタンパク質を同定した。現在、これらのタンパク質に対するshRNAを発現したレトロウイルスベクターや各タンパク質の発現ベクターを作製している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、計画通りに、EpoR変異体およびJAK2変異体を発現したBa/F3細胞を作製し、これらの細胞を用いて、EpoR複合体の同定を行った。細胞増殖誘導に必要なEpoRのリン酸部位を介して結合する分子として、16種類のタンパク質の分子の同定に成功している。これらのタンパク質には、細胞遊走に関わる低分子量Gタンパク質やそのGEF、発がんとの関連性が示唆されている脂質キナーゼやその調節サブユニットが含まれており、これらの結合分子は、JAK2変異体による発がんシグナルの実行因子として機能する可能性が高いと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在、EpoR 結合分子のレトロウイルス発現ベクターおよびshRNA発現ベクターを作製している。今後は、EpoR結合分子の強制発現および発現抑制した Ba/F3 細胞株を作製する予定である。作製した細胞株を用いて、WST アッセイにより細胞増殖に及ぼす影響を検討し、フローサイトメーターを用いて細胞周期を解析する。トランスウェル移行アッセイにより、各細胞の遊走能を検討する。また、各細胞株をヌードマウスに移植し、腫瘍形成に及ぼす影響を検討する。以上の解析を行い、EpoR結合分子の生理機能を明らかにする。さらに、作製した細胞株を用いて、EpoR結合分子に特有のシグナル伝達経路やJAK2 変異体の下流で活性化されるシグナル経路 (STAT3, STAT5, Ras-Raf-MEK-ERK, PI3K-Akt) を解析し、EpoR結合分子を介したJAK2変異体の発がん誘導の分子メカニズムを明らかにする。最後に、MPN患者由来HEL細胞を用いて、同様の実験を行い、同定したEpoR結合分子の機能を実証することを計画している。
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