研究実績の概要 |
チロシンキナーゼJAK2の点変異体 (V617F) が慢性骨髄増殖性腫瘍 (MPN) の原因遺伝子として同定されているが、現在までJAK2の点変異がMPNを引き起こすメカニズムは不明である。本研究では、JAK2変異体の発がん誘導シグナルを解析することにより、MPNの発症機序の解明をめざした。 私達は、JAK2変異体が誘導する細胞の形質転換には、エリスロポエチン受容体 (EpoR) の共発現が必要であることを見出した。さらに、EpoRの細胞内ドメインに存在する8個のチロシン残基は全て、JAK2V617F変異体によりリン酸化されることを明らかにした。次に、EpoRの8個のチロシン残基をフェニルアラニンに置換した8YF変異体が、JAK2変異体による細胞増殖や腫瘍形成を顕著に抑制することを見出し、JAK2変異体が誘導する発がんシグナルには、EpoRのリン酸化が必須であることを明らかにした。 また、EpoRの各リン酸化チロシン残基の役割を解析した結果、JAK2変異体による細胞増殖や腫瘍形成には、3個のチロシン残基 (Y343, Y460, Y464) のリン酸化が協同的に機能することが必要であることを見出した。JAK2変異体は、これらのチロシン残基のリン酸化を介して、転写因子STAT5の活性化を誘導し、形質転換を誘導することを明らかにした。 一方、JAK2変異体によりリン酸されるEpoRのY401には、JAK-STAT経路の抑制因子であるCISが結合し、JAK2変異体による細胞増殖や腫瘍形成を抑制することを見出した。以上の結果より、JAK2変異体はEpoRを介して、発がんシグナルだけでなく、それを制御する抑制機構も活性化していることが明らかになった。 今後は、JAK2変異体による発がん誘導に必須のEpoRのリン酸化部位を介して形成されるEpoR複合体を解明することをめざす。
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