研究課題/領域番号 |
17K08290
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
礒濱 洋一郎 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (10240920)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シェーグレン症候群 / アクアポリン / 自己抗体 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに,シェーグレン症候群(SjS)患者の約6割が血清中に外分泌腺に選択的に存在する水チャネルであるアクアポリン5(AQP5)に対する自己抗体を保有していることを見出してきた.この自己抗体は,外分泌機能異常というSjSの特徴的な症状や合併症と深く関わる可能性が高い.そこで平成29年度は,まず,患者がもつAQP5自己抗体のAQP5機能阻害作用の特徴について調べた.AQP5との反応性が認められる患者の血清から調整したIgG分画を内因性のAQP5をもつマウス肺上皮由来のMLE12細胞に処理すると,細胞膜上のAQP5量が減少し,一部のAQPが細胞内へと取り込まれることが,免疫細胞染色およびビオチンスイッチ法による実験により明らかとなった.患者IgGによるAQP5の細胞内取り込みは15分のIgG処理で観察され,さらに12時間以上処理すると,AQP5を含む細胞内小胞と考えられる構造体が顕微鏡下に観察された.このAQP5の細胞内取り込みは,クラスリン依存性のエンドサイトーシス阻害薬の影響を受けず,4℃下あるいはシクロデキストリンの共処理により消失したため,脂質ラフト依存性の機序が関わっていると推定している.細胞内に局在する異所性のAQP5は一部のSjS患者でも認められており,この抗AQP5自己抗体によるAQP5の細胞内取り込みが本疾患の外分泌異常と密接な関係にあると考えられる.一方,患者IgGのAQP4に対する交叉反応性についても調べたが,AQP5反応性をもつ47検体のうち17検体(約36%)がAQP4にも反応することが明らかとなった.抗AQP4自己抗体は視神経脊髄炎(NMO)の発症原因の一つであることが知られており,これらの患者のNMO合併のリスクを示唆するに至った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
シェーグレン症候群患者由来の血清やそのIgG分画の一部がAQP5と反応することは,免疫細胞染色法を用いた本研究の予備検討の段階で判明していた.しかし,各患者の抗AQP5抗体価すなわち反応の強度を定量的に評価するために,本年度は新評価法としてELISA法を応用した実験法の確立に多くの時間を割いた.しかし新評価法により,非特異的な反応とAQP5に対する特異的な反応の強度を明確に分けることや,各SjS患者間のAQP5に対する反応性の違いを明確にすることが可能となり,今後,各患者の様々な臨床的なデータと本成績を対比することで,抗AQP5自己抗体の臨床医学的な意義を明確にできると考えている. 一方,抗AQP5自己抗体とAQP5の相互作用の結果として生じると考えられるAQP5機能の阻害については,細胞内取り込みという興味深い現象が関わることを見出すに至っている.今後,全ての検体についての細胞内取り込みに対する作用を明確にし,上記の新評価法で得られた定量的な反応性と比較することで,抗AQP5自己抗体の機能的な意義や,本自己抗体の患者間での性質の違いなどを明確にできると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降も,引き続きSJS患者由来の血清およびIgG分画のAQP類に対する反応性を評価する予定である.既に少数例ながら,AQP5,AQP4のみならず腎臓での原尿濃縮と密接な関係にあるAQP2との交叉反応性を示す検体も認めており,このAQPアイソフォーム間での交叉反応性を中心にさらに検討を加える予定である.また各患者の,これらのAQP類に対する反応性の違いを様々な臨床知見と対比することで,SJSの診断あるいは予後の予見における抗AQP自己抗体の意義を解明していく予定である. 一方,本研究においてSJS患者由来の抗AQP5自己抗体のエピトープを決定することは最も重要な課題の一つである.患者由来のB細胞が得られる場合はこれを基にしたハイブリドーマの構築により抗AQP5自己抗体をクローニングすることを目指す.また同時に,AQP5の立体構造を基にしたエピトープに関するin silico予想に基づき,様々なペプチドを合成し,それらによる抗体反応の阻害活性を調べ,エピトープの同定を行う.これらの実験によって,その後に予定している抗AQP5抗体の獲得によって生じるSJS動物モデルの確立に繋げる予定である.
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