本研究の目的は、体内時計システムによる骨格筋機能の調節機構を明らかにし、その知見を基にメタボリックシンドロームの時間薬物治療の分子基盤を提示することである。その目的を達するため、体内時計調節において中心的な転写因子BMAL1を骨格筋特異的に欠損したマウス(M-BMAL1 KOマウス)を作製し、そのエネルギー代謝に関する特徴を骨格筋における遺伝子発現の観点から解析した。 高脂肪食条件下において、M-BMAL1 KOマウスでは脂肪酸取り込みに関わるトランスポーター類やβ酸化関連因子、そして血管新生関連因子の遺伝子発現が著しく増加していた。これらの遺伝子の中には、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α、超長鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ、短鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ、3‐ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1および2、脂肪酸輸送蛋白質1および4、そして血管内皮成長因子受容体が含まれた。対照的にステアロイル補酵素デカルボキシラーゼ1をはじめとする脂肪酸合成に関与するの遺伝子発現は、M-BMAL1 KOマウスにおいて有意に減少していた。ミトコンドリア生合成に関与する遺伝子の発現レベルに関して、Bmal1flox/floxマウスとMKOマウスの間に有意差は見られなかった。トレッドミル上での走行試験においてM-BMAL1 KOマウスの走行距離及び持久力は有意にBmal1flox/floxマウスそれに比較して優れていた。 以上の結果よりBMAL1は、骨格筋内における脂肪酸燃焼を制御することで酸素受容量の調節に関与することが示された。
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