本研究の目的は、ミトコンドリアのベータバレル型アニオンチャネルVDAC1/2/3それぞれの立体構造、特に、細胞死を抑制する相互作用化合物との複合体構造を解明することである。 平成29年度から31年度までに、VDAC1結晶への相互作用化合物浸潤によるVDAC1/化合物複合体の構造解析と、VDACコンフォーメーション固定のための変異体作成と結晶化スクリーニングを行った。結晶構造解析の結果、化合物の電子密度は観察されなかった。変異体については、結晶構造解析に有効な結晶が得られなかったため、結晶化促進を目的として、VDAC1/2/3それぞれの一部領域に対するモノクローナル抗体のスクリーニングを行い、遺伝子組換えによってそれぞれの抗体断片を作成した。 令和2年度は、それらモノクローナル抗体断片との共結晶化を目指し、VDAC/抗体断片の安定な複合体調製条件の検討を引き続き行った。IgG、Fab、Fv-clasp等の様々な抗体(断片)形状で複合体の安定化を試みたが、結晶化スクリーニングに利用できる結合強度の複合体は得られなかった。次に、近年の有力なタンパク質構造解析ツールであるクライオ電子顕微鏡を利用した構造解析を目指し、引き続きクライオ電顕用サンプル調製条件検討を行った。VDAC1を様々な界面活性剤で可溶化、また、複数種の脂質ディスクへ再構成し、電顕観察を行った。負染色による試料観察ではβバレルタンパク質の概形が観察されるものの、膜外領域がほとんど無いために、単体ではクライオ電顕単粒子解析が困難であった。 抗体を結晶化やクライオ電顕解析用のツールとして用いるためには、立体構造を認識し、抗原を一定のコンフォーメーションに固定することが重要であるため、新たな研究課題として、結晶化品質のVDACタンパク質を抗原として免疫し抗体を作製する研究を開始した。本抗体を用いた構造解析に期待している。
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