研究課題/領域番号 |
17K08306
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日比 陽子 名古屋大学, 医学部附属病院, 薬剤師 (70295616)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | Neuronal PAS domain 4 / 精神疾患 / 脳 / プロモーターアッセイ |
研究実績の概要 |
NPAS4は、GABA作動性抑制性神経の発達やシナプス形成との関連が報告される転写因子である。全身性NPAS4遺伝子欠損 (NPAS-KO) マウスが多動、不安関連行動の減少、恐怖記憶の低下、PPIの障害の他、協調運動や運動学習能力の低下を示し、Npas4-KOマウスの脳各部位においてGABA受容体のmRNAレベルが顕著に低下している。また、Npas4はストレス負荷により、グルココルチコイド受容体活性化やNpas4プロモーターの転写開始点付近のCpGアイランドのDNAメチル化亢進を介して発現低下することから、この転写因子がストレス・GABA神経系障害・精神症状発症の関係の鍵であると考えられる。そこで本研究では、Npas4発現低下による精神疾患様行動発現との関わりを解析し、さらにNpas4の発現上昇によるストレス負荷が要因となる精神疾患の発症抑制や治療の可能性を探り、Npas4プロモーター活性を上昇させる化合物を探索し治療に繋げることを目的としている。今回、薬剤性けいれん誘発モデルを用いて全身性Npas4-KOマウスが痙攣に対する閾値が低いことと、Npas4はHomer1a転写を介して神経興奮を低下させることを明らかにした。またNpas4プロモーターをクローニングしてルシフェラーゼ遺伝子と繋いだプロモーターアッセイ系を確立し、Npas4プロモーター活性を誘導する化合物探索をおこなった。その結果、市販の活性化合物ライブラリの中から、ヒトおよびマウスのNpas4プロモーター活性を上昇させる化合物を数種類見出した。Npas4はKCL刺激による神経興奮で発現が上昇することが知られているが、今回見出された化合物によるNpas4転写上昇は、KCLによるものより顕著に高く、その作用機序は異なると推察される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度の目標は、(1) 全身性Npas4-KOマウスを用いて、NPAS4の発現低下と精神疾患様行動発現との関わりを明らかにする。またNPAS4発現欠失がGABA作動性神経系発達に及ぼす影響を解析するため、Npas4-KOマウスの各脳部位におけるGABA受容体サブユニットおよびGABA作動性神経関連分子の発現変動をmRNAレベルおよび蛋白質レベルで解析する。(2) 野生型マウスのAβ誘発性認知機能障害モデルにて、NPAS4発現レベルの変動を調べる。またNpas4-KOマウスで同モデルを作成し脳内炎症亢進や認知機能障害発現にNPAS4の有無が及ぼす影響を解析する。(3) ヒトおよびマウスNpas4プロモーターを組み込んだルシフェラーゼアッセイプラスミドを神経芽腫由来株化細胞に導入したプロモーターアッセイ系を用い、既知の化合物ライブラリー(LOPAC ファイザーライブラリー)からNPAS4プロモーターを活性化する候補化合物を選定する、であった。今年度の成果ではNpas4の発現低下によってペンチレンテトラゾール誘発痙攣への閾値が低くなることが見出され、そのメカニズムとして、Npas4がHomer1aを転写し神経興奮を抑制するフィードバックをかけていることが示唆された。また、Npas4プロモーター活性を誘導する化合物探索については、市販の活性化合物ライブラリの中から、ヒトおよびマウスのNpas4プロモーター活性を上昇させる化合物を数種類見出した。Aβ誘発性認知機能障害モデルについては、まだ結果が得られていない。
|
今後の研究の推進方策 |
Npas4プロモーター活性を上昇させる化合物探索により、候補化合物が数種類得られたので、作用機序を分子生物学的解析により明らかにする。また、Aβ誘発性認知機能障害モデルを用いて認知症とNpas4発現変動の関係を明らかにする。 (1)Npas4発現誘導薬物の探索により見出された数種類の化合物についてさらに解析を深め、至適濃度の決定や細胞内シグナル伝達経路の解析を行いNpas4転写上昇のメカニズムを明らかにする。 (2)認知機能障害におけるNpas4の役割の解析を目的とし、野生型マウスのAβ誘発性認知機能障害モデルにて、NPAS4発現レベルの変動を調べる。またNpas4-KOマウスで同モデルを作成し脳内炎症亢進や認知機能障害発現にNPAS4の有無が及ぼす影響を解析する。脳内炎症亢進の検出には炎症性サイトカインやiNOSの発現上昇を指標とするが、これらの因子の変動の検出が困難な場合には、NF-kBなど炎症誘導因子のmRNAレベル変動を指標とする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
野生型マウスのアミロイドβ誘発性認知機能障害モデルの解析に時間を要しているため、未使用額が生じた。次年度は、モデルマウス作成のためのアミロイドβペプチドや、解析のためのリアルタイムPCR用試薬、ウエスタンブロッティング用抗体の購入に使用予定である。
|