研究課題
NPAS4は、GABA作動性抑制性神経の発達やシナプス形成との関連が報告される転写因子である。全身性NPAS4遺伝子欠損 (NPAS4-KO) マウスが多動、不安関連行動の減少、恐怖記憶の低下、PPIの障害の他、協調運動や運動学習能力の低下を示し、Npas4-KOマウスの脳各部位においてGABA受容体のmRNAレベルが顕著に低下している。また、Npas4はストレス負荷により、グルココルチコイド受容体活性化やNpas4プロモーターの転写開始点付近のCpGアイランドのDNAメチル化亢進を介して発現低下することから、この転写因子がストレス・GABA神経系障害・精神症状発症の関係の鍵であると考えられる。そこで本研究では、Npas4発現低下による精神疾患様行動発現との関わりを解析し、さらにNpas4の発現上昇によるストレス負荷が要因となる精神疾患の発症抑制や治療の可能性を探り、Npas4プロモーター活性を上昇させる化合物を探索し治療に繋げることを目的としている。これまでに、薬剤性けいれん誘発モデルを用いて、Npas4-KOマウスがけいれんの閾値が低いことを見出し、Npas4はHomer1a転写を介して神経興奮を低下させることを明らかにした。また、Npas4の発現増加による精神疾患治療薬の開発を目指し、候補化合物を探索している。今年度は、前年度に引き続き、Npas4プロモーターをルシフェラーゼ遺伝子と繋いだプロモーターアッセイ系を用いて市販の活性化合物ライブラリの中からNpas4プロモーター活性を誘導する化合物探索を行い、数種類見出されたNpas4プロモーター活性上昇化合物の中から、最もプロモーター活性上昇度が強い化合物について薬効解析を行っている。
3: やや遅れている
令和元年度の目標は、(1)Npas4発現誘導薬物の探索により見出された数種類の化合物についてさらに解析を深め、細胞内シグナル伝達経路の解析を行いNpas4転写上昇のメカニズムを明らかにする。また、本化合物の薬効には神経保護作用が知られていることから、Npas4転写上昇と神経保護作用の関係についても調査する。(2)認知機能障害におけるNpas4の役割の解析を目的とし、野生型マウスのAβ誘発性認知機能障害モデルにて、NPAS4発現レベルの変動を調べる。またNpas4-KOマウスで同モデルを作成し脳内炎症亢進や認知機能障害発現にNPAS4の有無が及ぼす影響を解析する。であった。今年度は(1)の計画に基づき実験を進めている。Npas4発現誘導候補化合物が内在性Npas4の発現レベル変動に及ぼす影響を解析するに際し、市販の神経芽細胞腫由来株化細胞の他、より生体に近いマウス胎児由来の初代神経培養細胞の培養系を確立している。(2)のAβ誘発性認知機能障害モデルについては、まだ結果が得られていない。新型コロナウイルス流行により大学・病院・動物飼育施設等への立ち入りが制限されていることは実験遂行の障害となっている。
Npas4プロモーター活性を上昇させる化合物探索により、Npas4を発現誘導する候補化合物が数種類得られたので、作用機序を分子生物学的解析により明らかにする。また、Aβ誘発性認知機能障害モデルを用いて認知症とNpas4発現変動の関係を明らかにし、Npas4発現誘導化合物投与の効果を検証する。(1)Npas4発現誘導薬物の探索により見出された数種類の化合物についてさらに解析を深め、細胞内シグナル伝達経路の解析を行いNpas4転写上昇のメカニズムを明らかにする。また、本化合物の薬効には神経保護作用が知られていることから、Npas4転写上昇と神経保護作用の関係についても調査する。(2)認知機能障害におけるNpas4の役割の解析を目的とし、野生型マウスのAβ誘発性認知機能障害モデルにて、NPAS4発現レベルの変動を調べる。またNpas4-KOマウスで同モデルを作成し脳内炎症亢進や認知機能障害発現にNPAS4の有無が及ぼす影響を解析する。脳内炎症亢進の検出には炎症性サイトカインやiNOSの発現上昇を指標とするが、これらの因子の変動の検出が困難な場合には、NF-kBなど炎症誘導因子のmRNAレベル変動を指標とする。また、野生型マウスのAβ誘発性認知機能障害モデルにNpas4プロモーター活性上昇化合物を投与し認知記憶障害発現への影響を解析する。
平成30年度の所属異動による研究の進行遅延から持ち越した研究費分を今年度は使用したため、次年度に使用額が生じている。次年度は、・細胞培養用プラスチック機材や培地・Npas4のプロモーターアッセイを行うための遺伝子導入試薬、プレートおよびアッセイ用試薬を購入する。・in vitroにおける免疫組織学的解析のための各種試薬を購入する。・mRNA変動を検出するための、RNA精製用のキット、逆転写酵素、リアルタイムPCR用キットを購入する。・モデルマウス作成のためのマウスおよびアミロイドβペプチドを購入する。また、生化学的解析に用いる各種抗体を購入する。・生体内におけるNPAS4プロモーターのDNAメチル化変動や遺伝子多型を調べるための、ゲノムDNA精製キットやPyroMarkシステム用解析試薬やプレート、オリゴヌクレオチドを購入する。・本研究で得られた成果の公表のため論文投稿費に使用する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
BMC Psychiatry.
巻: 19 ページ: 190-199
10.1186/s12888-019-2172-x.