ホメオスタシス維持機構の破綻による過剰な細胞増殖が繰り返されると、発癌へとつながることが考えられる。平成29年度の研究では、腸内細菌叢が産生する酪酸が初期大腸癌に関るEP4受容体自身の発現をエピジェネティクに制御している可能性を見いだした。平成30年度には、酪酸の濃度依存的にEP4受容体が減少するが、それに伴い、プロスタグランジンE2(PGE2)刺激により誘導される初期大腸癌マーカーであるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)発現量も減少することを明らかとした。また、この酪酸によるCOX-2発現量の減少は、Na+依存性モノカルボン酸トランスポーター(SMCT)-1を介していることも明らかとした。さらにCancer Genome Atlas databaseを用いてin silico解析を行ったところ、大腸癌組織ではSMCT-1 mRNAの発現が低いことを見いだした。平成31年度/令和元年度には、マスト細胞から放出されるヒスタミンや、2型ヘルパーT細胞が産生するインターロイキン(IL)-4などの2型免疫反応を担う生理活性物質を中心にHCA-7細胞を用いて検討したところ、IL-4やヒスタミンの存在下では、PGE2刺激によるEP4受容体情報伝達系活性化が抑制されることを明らかとした。しかしながらIL-4と同様に2型自然リンパ球により誘導されるIL-13では、この抑制効果がみられなかった。ヒスタミンとIL-4は、メカニズムこそ異なるが、EP4受容体それ自体の発現を抑制することで、ヒト結腸癌HCA-7細胞の癌悪性化シグナルを抑制する可能性を明らかにすることができた。すなわち恒常性を維持するために必要な酪酸、そして2型免疫系細胞の産生するヒスタミンやIL-4などの生理活性物質は、大腸癌に対して改善効果を有する可能性が強く示唆された。
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