研究課題/領域番号 |
17K08314
|
研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
辻 稔 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (70297307)
|
研究分担者 |
宮川 和也 国際医療福祉大学, 薬学部, 講師 (10453408)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ストレス適応 / 白血病阻止因子(LIF) / アストロサイト / オリゴデンドロサイト / ミエリン / ERK / 5-HT1A受容体 / マウス |
研究実績の概要 |
2018年度では、1)ストレス適応モデルマウスの海馬において、LIFの増加とともにERKの活性化が認められた一方、非適応モデルマウスの海馬では、LIFの増加ならびにERKの活性化が認められず、ミエリン構成タンパク質が減少していたこと、2)ストレス非適応モデルマウスの情動性の低下ならびに海馬におけるミエリン構成タンパク質の減少が5-HT1A受容体作動薬の投与により抑制され、且つERKの著明な活性化が認められたことから、ストレス適応機構において海馬における5-HT1A受容体-LIF-ERKシグナル伝達系を介したミエリン形成が重要な役割を担っていることが示唆された。2019年度では、この仮説のさらなる詳細な検証を目的とした検討を行い、以下の知見を得た。 1)ミエリン形成に関与するグリア細胞の解析 ストレス適応および非適応モデルマウスにおけるアストロサイト、オリゴデンドロサイト前駆細胞およびオリゴデンドロサイト成熟細胞の変化について解析した。その結果、ストレス適応モデルマウスの海馬ではアストロサイトが活性化していたのに対し、非適応モデルマウスではアストロサイトの活性化が全く認められず、且つ、オリゴデンドロサイト成熟細胞が著明に減少していた。したがって、アストロサイト由来のLIFがオリゴデンドロサイトによるミエリン形成に寄与しており、この一連のメカニズムの破綻がストレス適応形成の障害につながることが示唆された。 2)ミエリン形成障害モデルマウスのストレス適応能力の解析 既報に準じてクルピゾン含有餌ペレットを摂取させることにより、脳内ミエリン形成を障害させたマウスのストレス適応能力の変化について解析した。その結果、本ミエリン形成障害モデルマウスにおいて、ストレス適応能力の減弱が認められた。したがって、ストレス適応機構において、脳内ミエリン形成が重要な役割を担っていることが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、LIFのミエリン形成を介した脳神経伝達効率の亢進や脳神経細胞の保護が、ストレスに対する適応の形成に深く関与していることを種々の研究手法を用いて多角的に実証し、ストレスに対する恒常性維持に関与する脳内メカニズムの解明と新規うつ病治療薬の開発への応用につなげることである。この目的の達成に向けて、2019年度では、前年度の研究成果を踏まえ、1)ミエリン形成に関与するグリア細胞の解析、2)ミエリン形成障害モデルマウスのストレス適応能力の解析を行った。結果として、「研究実績の概要」に記載したとおり、ストレス適応の形成にはアストロサイト由来のLIFが寄与するオリゴデンドロサイト成熟細胞によるミエリン形成が重要であることを示唆する知見を得ることができ、さらには、脳内ミエリン形成を障害させたマウスを用いた検討により、ストレス適応機構における脳内ミエリン形成の重要性を再確認できた。しかし、後者の実験においてはモデル動物の作成に想定以上の時間を要したため、モデル動物の脳内におけるミエリン関連タンパク質の変化等に関する生化学的検討や、各種治療候補物質の効果を検証する行動薬理学的検討まで至らなかった。これらの検討については、補助事業期間の延長を申請し、2020年度に実施することとした。
|
今後の研究の推進方策 |
2017年度~2019年度の3年間にわたる研究において、海馬アストロサイトにおいて生成・分泌されるLIFによるオリゴデンドロサイトを介したミエリン形成がストレス適応の形成機構において重要な役割を果たしており、この機構の破綻が情動障害発症のリスクとなる可能性を示唆する知見を得た。今後の課題は、この仮説を様々な研究手法を用いてより多角的かつ詳細に実証し、その成果を新規抗うつ薬の開発への応用につなげることである。この課題をクリアするためには、特に、1)海馬アストロサイト由来のLIFがストレス適応の形成機構において重要な役割を担っていることの直接的な証明、2)アストロサイトにおけるLIFの産生・分泌に寄与している分子の解明、3)アストロサイトにおけるLIFの産生・分泌に寄与している分子を薬理学的に活性化させる方策の開発と、それによりミエリン形成及びストレス適応形成の障害が改善することの証明を目的とした研究が重要と考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度では、1)ストレス適応および非適応モデルマウスにおけるオリゴデンドロサイト前駆・成熟細胞およびミエリンタンパク質の発現解析、ならびに2)ミエリン形成障害モデルマウスのストレス適応能力の変化に対する治療薬の効果に関する研究を予定していた。前者1)については予定していた研究を終えることができたが、後者2)についてはモデル動物の作成に想定以上の時間を要したため、一部の検討を遂行できなかった。したがって、これら検討のために見積もっていた各種消耗品の費用を次年度に繰り越すこととした。本未検討課題については2020年度に実施する予定であり、その際に発生する費用に今回繰り越した次年度使用額を充当する。
|