研究課題/領域番号 |
17K08315
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
稲津 正人 東京医科大学, 医学部, 教授 (00297269)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | choline / transporter / cancer |
研究実績の概要 |
我々は、これまでに様々な癌細胞におけるコリン取り込み機構の異常亢進が癌細胞の増殖と深く関係していることを報告してきた。臨床においても11C-コリンや18F-コリンを用いたPET/CT の画像診断によりコリンの腫瘍細胞への集積性の高さが確認されている。従って、癌細胞は積極的にコリンを取り込み細胞増殖に利用していることが推察される。多くの癌細胞は新規のコリントランスポーターであるcholine transporter-like protein 1(CTL1)を介して取り込まれており、CTL1の機能阻害はアポトーシスを誘導することが確認されている。したがって、CTL1は癌治療における新規標的分子としての可能性があり、CTL1阻害剤をドラッグ・リポジショニング研究により見出すことを目的とした。 食道癌細胞はCTL1を介して細胞外からコリン取り込みを行なっており、細胞外コリンを除くとアポトーシス誘導による細胞死が観察された。また、既存医薬品のアゼラスチン、クレマスチン、ロラタジン、ルパタジン、ベプリジル、メキタジン、パロキセチンによりコリン取り込みが抑制され細胞死とアポトーシス誘導が引き起こされた。しかしながら、これらの薬物の臨床使用量と比較すると効果を発現する濃度は高濃度でありドラッグ・リポジショニングとして臨床応用するには難しいと判断した。そこで、CTL1阻害剤を植物由来の有機化合物ライブラリー(600化合物)からスクリーニングを行った。その結果、CTL1阻害作用を有し、アポトーシス誘導による細胞死を引き起こすヒット化合物2品を見出した。これらの化合物はグリオーマ細胞、膵臓がん細胞、舌がん細胞に対して有効であり、マウスがん移植モデルにてがん細胞の増殖を抑制することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞におけるコリントランスポーターの機能解析により、CTLファミリーのCTL1およびCTL2が各種がん細胞において高発現し、細胞増殖ならびに細胞生存に関与していることを突き止めた。また、ドラッグリポジショニング研究により7種類の既存医薬品がヒットし、研究成果を国際誌に発表した(Nagashima et al. 2018)。しかしながら、これらの医薬品の血中濃度と抗腫瘍効果を示す濃度との間には大きな差が認められる。そこで、CTL1阻害作用を示す化合物の探索を植物由来の有機化合物ライブラリー(600化合物)から行った。その結果、CTL1阻害作用を有し、アポトーシス誘導による細胞死を引き起こすヒット化合物2品を見出し、これらの化合物はグリオーマ細胞、膵臓がん細胞のマウスがん移植モデルにてがん細胞の増殖を抑制することを確認した。がん移植モデル動物におけるCTL1およびCTL2 mRNA発現解析を行った結果、正常組織と比較してがん組織はCTL1およびCTL2のmRNA発現が約40倍高いことが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
天然有機化合物ライブラリーからのスクリーニングにてヒットした2化合物を中心に他のがん細胞における効果をin vivo系で評価する。また、CTL1阻害効果がアポトーシスを誘導するメカニズムについても検討する。 1)CTL1阻害効果とアポトーシス誘導のメカニズム解析 CTL1機能阻害により細胞内コリン濃度が減少し細胞膜の主成分であるフォスファチジルコリンの合成が抑制され細胞膜合成が障害される。しかし、がん細胞は細胞膜のスフィンゴミエリンを分解してフォスファチジルコリン合成を行う経路を活性化させ細胞増殖を維持しようとする。この時、アポトーシス誘導分子であるセラミドが切り出され結果的にアポトーシスによる細胞死が引き起こされると考えられる。これらのアポトーシス誘導メカニズムを検証するために、スフィンゴミエリン分解酵素であるスフィンゴミエリナーゼの発現に及ぼすヒット化合物の影響について検証する。さらに、細胞膜透過性のセラミドによるアポトーシス誘導についても検証する。 2)各種がん移植モデル動物におけるヒット化合物の抗腫瘍効果 グリオーマ細胞、膵臓がん細胞および肝臓がん細胞をヌードマウスに移植して、ヒット化合物の抗腫瘍効果について検証する。投与量依存性の検討として、3, 10, 30 mg/kg, i.p.で効果を確認する。また、最終評価時点においてがん組織、および各種臓器を摘出してCTL1およびCTL2のmRNAおよびタンパク発現を解析する。さらに、組織学的評価も実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通り支出できたが、3,050円の残金が生じた。次年度にて研究の消耗品として使用する。
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