様々な癌において11C-コリンや18F-コリンを用いたPET/CT の画像診断によりコリンの腫瘍への集積性の高さが確認されており、癌細胞は積極的にコリンを取り込み細胞増殖に利用していることが推察される。癌細胞へのコリン取り込みは新規のコリントランスポーターであるcholine transporter-like protein 1(CTL1)を介して取り込まれており、CTL1の機能阻害はアポトーシスを誘導することが確認されている。したがって、CTL1は癌治療における標的分子としての可能性があり、CTL1阻害剤は新規の治療メカニズムを有するがん治療剤になると期待される。 そこで、CTL1阻害剤を既存医薬品および植物由来有機化合物ライブラリー(500化合物)からスクリーニングを行った。その結果、CTL1阻害作用を有し、アポトーシス誘導による細胞死を引き起こすヒット化合物を見出した。これらの化合物はグリオーマ細胞、膵臓がん細胞、舌がん細胞に対して有効であり、マウスがん移植モデルにてがん細胞の増殖抑制を確認した。また、下記のアポトーシス誘導メカニズムを解明した。CTL1阻害作用により細胞内コリン量の減少により細胞膜の主成分であるphosphatidylcholine合成が低下し、細胞膜合成が出来ず増殖抑制が引き起こされる。しかし、癌細胞は増殖能を維持する代償機構としてsphingomyelinase-4を活性化してsphingomyelinを分解してphosphocholineを供給することで細胞膜合成を維持しようとするが同時にアポトーシス誘導分子であるceramideが生成する。このceramideによりcaspase-3/7が活性化され細胞死が誘導される。また、ceramideはアポトーシス抑制因子のsurvivin発現を抑制してアポトーシス誘導を増加させる。
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