研究課題/領域番号 |
17K08316
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
瀬木 恵里 東京理科大学, 基礎工学部生物工学科, 准教授 (70378628)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 海馬 / うつ治療 / 神経成熟 / ACTH / 歯状回 / デスモプラキン |
研究実績の概要 |
海馬成熟神経の興奮性増大を含む「脱成熟」機能変化が、うつ治療効果に寄与するという仮説を立て、海馬のシナプス機能変化に着目した新たなうつ治療標的の同定を目指している。2018年度は、研究課題の内、項目2:うつ病モデルにおける海馬神経機能不全とうつ治療での回復メカニズムと項目3:海馬での接着機能の調節に着目した新たなうつ治療標的を評価を行った。 項目2では、うつ病モデルとして、下垂体前葉ホルモンであるACTH長期投与モデルを試みた。本モデルでは、電気けいれん刺激を含む抗うつ治療でも抗うつ様行動を引き起こさなかった。この様な治療抵抗性の要因として抗うつ治療によるBDNFやNPYなどの神経放出因子の発現低下があることを見出した。一方でACTH投与は抗うつ治療による海馬での細胞増殖は抑制しなかった。従って、今後、本モデルを用い海馬成熟神経の機能がどの様に変化しているかを検討し、抗うつ行動とリンクする機能変化の同定を試みる。 項目3では接着関連因子であるデスモプラキンの発現低下とうつ治療効果についての検討を行った。デスモプラキンは抗うつ治療による海馬歯状回で発現が減少する。海馬歯状回でデスモプラキンの発現をノックダウンしたところ、予想に反して成熟神経のセロトニン反応性は抑制しており、成熟神経の活動性が低下している可能性が示唆された。従って、デスモプラキンは抗うつ治療による神経興奮性増大を負に制御する因子である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に計画していた項目1での海馬歯状回でのオプトジェネティクスを用いた神経活動制御については、ウイルス感染は確認できたものの、光刺激による最初期遺伝子発現増加が確認できておらず、光刺激の強度・頻度・回数の検討が必要であることが示唆された。一方で、項目2のうつモデルを用いた海馬成熟神経の反応性変化や項目3の標的分子ノックダウンによる新たな機能が示唆されたため、こられについては研究が順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
項目1:オプトジェネティクス法を用いて、海馬神経特異的に活性化した時の行動変化と機能変化を検討する。AAVウイルス歯状回投与によるチャネルロドプシン発現系を用いて、繰り返しの光刺激による神経機能の持続的変化を、遺伝子発現(c-Fos, 成熟神経マーカー等)・組織化学(シナプスマーカー発現)・電気生理(興奮性の変化)によって解析するとともに、うつ治療刺激による機能変化と比較する。また、これらマウスでの抗うつ関連行動(強制水泳試験、新規環境での摂食抑制試験、ショ糖嗜好変化)がどのように変化するかを検討する。神経新生の寄与が少ないよう、光刺激期間は7日から10日程度にする。 項目2: ACTH長期投与モデルで海馬成熟神経の機能がどの様に変化しているかを、うつ治療に対する反応性の違いに着目して検討する。 項目3:海馬でのデスモプラキンの発現ノックダウンによって、海馬成熟神経の機能がどの様に変化しているかを解析を進めるとともにデスモプラキンによる細胞内シグナル調節機構をカテニンシグナルに着目して検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究打ち合わせはスカイプなどWebを介したもので行ったため、研究打ち合わせ用の旅費分が次年度使用になった(78,496円)。2019年度は当初の予定通り消耗品に約120万円、研究成果発表・研究打ち合わせに10万円、論文校閲・投稿に10万円使用する予定である。
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