研究課題/領域番号 |
17K08318
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
田口 久美子 星薬科大学, 薬学部, 助教 (20600472)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | GRK2 / 血管内皮機能不全 / 分子薬理学 |
研究実績の概要 |
糖尿病性合併症に共通した病理学的特徴は、血管障害であることが知られている。申請者がこれまでに糖尿病性血管合併症においては、G-protein coupled receptor kinase 2 (GRK2) がAktの上流にて血管弛緩因子であるNOの制御をかけていることを明らかにした。そこで、本研究では、GRK2に焦点を当て、糖尿病時血管内皮細胞がどのように障害され、そして障害を受けた血管内皮細胞が機能をどのように維持しようと働くのかを明らかにすることを目指している。本年度は、血管内皮細胞を用いて疑似的な糖尿病性血管障害状態を作り出し、GRK2発現の挙動を検討し、GRK2を抑制したマウスを用いた血管への影響を検証した。その結果、以下の結果を得ることができた。 1.2型糖尿病モデルマウスで様々な臓器のGRK2発現が増加していることを確認した。そこで、GRK2発現を抑制させるため、GRK2 siRNAを投与した。その結果、肝臓のGRK2発現を抑制することで、短時間に劇的に糖代謝やインスリン抵抗性を改善し、血管機能を回復させることがわかった。 2.ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に高グルコースおよび高インスリン処置をし、疑似的糖尿病性血管内皮障害状態を作り出した。その結果、GRK2発現および活性が増大することを確認した。その後、細胞を正常濃度のグルコースやインスリンに戻すことで、短時間で劇的にGRK2活性が減少し、血管機能(NO産生能)が改善することが明らかとなった。 3.HUVECにアンギオテンシンIIと高濃度グルコースを処置し、高血圧を併発した糖尿病を想定した疑似的細胞モデルを作成した。その細胞からは正常細胞よりも多くの細胞膜断片が産生され、NO合成酵素の発現を減少させることを明らかにした。GRK2が細胞膜断片産生・放出を誘導しているのではないかと考え、詳細な検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、①培養細胞系を確立させ、疑似的な糖尿病性血管障害モデル細胞を用いたGRK2活性因子を検討していくこと、②GRK2を欠損させた場合の効果やGRK2と様々なタンパクの相互作用を検討していくことを予定していた。①に関しては培養細胞系を確立させ、基礎データを蓄積中である。本年度は、高インスリン・高グルコース処置の結果やアンギオテンシンII・高グルコース処置の結果を報告することができた。②に関しては、細胞を用いた方法を検討することを予定していたが、動物モデルの実験を先行して検討した。今後、細胞モデルでも検討し、詳細なGRK2のシグナル伝達を追っていきたいと考えている。さらに、糖尿病モデルマウスを用いた実験においても、細胞膜断片産生放出に関する全く予期していなかった多くのデータを集めることができた。それぞれの実験において、多くの課題が見つかり、来年度の予定と合わせて検討していきたい事項が見つかった。しかしながら、これらのことを総合的に判断し、現在、概ね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、本年度の研究によって、糖尿病時、肝臓のGRK2発現を正常レベルまで抑制することで糖代謝やインスリン抵抗性を改善させ、その結果、血管内皮障害のシグナル異常を改善させるということ、また、糖尿病時産生放出される細胞膜断片が血管内皮障害と密接に関与していること、それにはGRK2が関与している可能性があること、また、肝臓と他臓器の臓器間連関にGRK2が関与している可能性があり検討の余地があることが明らかとなった。このように、本年度の培養細胞実験系の確立によって集めたGRK2の基礎的データをもとに、さらに動物実験を重ね、GRK2を分子標的とする阻害薬投与またはsiRNA投与による臨床応用への基盤データを積み重ねていくことを予定している。特に、様々なタイプの糖尿病モデル動物にGRK2阻害薬やGRK2 siRNAを連続投与することで、血管内皮細胞障害に対するGRK2の関与ばかりでなく、他の臓器への影響を検討することで、GRK2阻害薬やGRK2 siRNAがどの臓器に特異的に作用させることが有効なのか、どの程度臓器間連関とGRK2が関与しているのかを検証し、どこの臓器へ特異的にGRK2阻害薬やGRK2 siRNAを送達させる必要があるのかを明らかとし、臨床応用への基盤を作りたいと考えている。胸部大動脈においては、NO産生シグナルが血管緊張性調節に重要であり、本研究で見出された成果が糖尿病性血管障害に対する治療戦略の一助となるようさらに努力を重ねていく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、所属機関の動物実験施設の移設があり、実験動物の移動や飼育環境の変化に伴う基礎データを収集したため、予定していた実験スケジュールに多少のずれが生じた。現在、新施設での動物実験が再稼働できる状態になったため、動物実験にあてていくことを予定している。
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