研究課題
肺高血圧症は、肺血管の障害によって肺血管抵抗が上昇し、持続的に肺動脈圧が上昇する致死性の難病である。我々は、肺動脈平滑筋細胞に分布し、細胞外カルシウム濃度を感知するカルシウム感受性受容体の発現亢進が、肺動脈性肺高血圧症の病態形成に関与していることを明らかにしてきた。さらに、カルシウム感受性受容体の拮抗薬が、肺高血圧症モデル動物の病態を改善することも示してきた。本研究課題では、カルシウム感受性受容体を特異的かつ選択的に阻害する化合物のスクリーニングを行っている。現在までに、漢方薬の主成分の一つや一部のホルモン製剤が、肺動脈性肺高血圧症で認められる肺動脈平滑筋細胞の異常な増殖を抑制することが分かった。次に、肺高血圧症モデル細胞および動物を用いて、それら候補化合物の薬効をさらに詳細に評価する予定である。さらに、新規薬物のスクリーニング実験を行っている際に、肺動脈性肺高血圧症で血中濃度が増加する血小板由来成長因子(PDGF)に関連する薬物によって、細胞増殖や細胞遊走に影響が認められた。そのため、PDGFの下流シグナルを解析した結果、肺動脈性肺高血圧症の肺血管リモデリングに関与するカルシウム感受性受容体の発現亢進機構に、PDGFシグナルが関連することが示唆された。肺動脈性肺高血圧症で機能亢進するカルシウム感受性受容体の発現増加に関与する分子機構は、依然として不明であるため、次年度以降も平行して検討する予定である。以上より、本研究成果は、肺動脈性肺高血圧症の発症や病態形成の分子メカニズムの解明、また、肺動脈性肺高血圧症の新規治療薬を開発する上で有益な知見であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、肺動脈平滑筋細胞株を利用したスクリーニング系を用いて、カルシウム感受性受容体の発現および活性に影響する薬物を見出すことができた。また、肺動脈性肺高血圧症で発現亢進するカルシウム感受性受容体の発現亢進機構に関与するシグナル系を見出すことができた。
今後は、主に肺動脈平滑筋の培養細胞(ヒト健常、および特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来)を用いた細胞増殖および細胞死アッセイにより明らかとなった化合物を肺高血圧症モデル動物に投与し、in vivoレベルで薬効を評価する予定である。さらに、カルシウム感受性受容体の発現を制御する新たなシグナル系についても、肺高血圧症モデル動物を使用して詳細に解析する予定である。そのため、in vivo実験に必要不可欠なMillarシステム(カテーテルによる圧測定システム)を購入する予定である。
平成29年度は、主に培養細胞を用いた細胞増殖・細胞死・ウエスタンブロットなどのin vitro実験が先行したため、消耗品費が当初の見積もりよりも低く抑えることができた。平成30年度以降は、in vitro実験の結果を基盤とし、肺高血圧症モデル動物を用いたin vivo実験を主とする。その動物実験に必要不可欠なMillarシステム(カテーテルによる圧測定システム)を、平成30年度に購入する予定のため次年度への使用額が生じた。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
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