研究課題/領域番号 |
17K08320
|
研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
山村 彩 愛知医科大学, 医学部, 助教 (40633219)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 肺高血圧症 / カルシウム感受性受容体 / PDGF受容体 / 肺動脈 / 平滑筋 / カルシウムシグナル / リモデリング / リン酸化 |
研究実績の概要 |
肺高血圧症は、肺血管の障害によって肺血管抵抗が増加し、持続的に肺動脈圧が上昇する致死性の疾患である。肺高血圧症分類の第1群であり、最も典型的な臨床像を示す肺動脈性肺高血圧症(指定難病)の主な原因は、肺動脈平滑筋の攣縮と肺血管リモデリングの亢進である。これらの病態には、各種シグナル分子の異常や過度な細胞内カルシウム濃度上昇が関与していることが知られている。我々は、肺動脈平滑筋に発現し、細胞外カルシウム濃度を感知するカルシウム感受性受容体の発現増加および機能増強が、肺動脈性肺高血圧症の肺血管リモデリングに関与していることを明らかにした。しかし、カルシウム感受性受容体の発現増加に関与する分子機構は、依然として不明である。本研究では、肺動脈性肺高血圧症で機能亢進するカルシウム感受性受容体の発現制御因子の解明を目指した。特に、肺動脈性肺高血圧症において、血中濃度が増加する血小板由来成長因子(PDGF)に着目した。PDGF刺激によるPDGF受容体のリン酸化は、特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞(IPAH-PASMCs)で長く持続していた。PDGF受容体の下流シグナルであるERKやAktのリン酸化もIPAH-PASMCsで促進していた。また、正常ヒト由来の肺動脈平滑筋細胞(Normal-PASMCs)をPDGFで刺激すると、IPAH-PASMCsと同程度の細胞増殖や細胞遊走が認められた。さらに、IPAH-PASMCsにPDGF受容体阻害薬であるイマニチブを投与すると、PDGF誘導性カルシウム感受性受容体の発現亢進が抑制された。本研究成果は、肺動脈性肺高血圧症の発症や病態メカニズムの解明、さらに、肺動脈性肺高血圧症の新規治療薬を開発する上で有益な知見であると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した本年度の計画に沿って、実験を順調に進めることができた。また、その研究成果を学術雑誌や学会で精力的に発表することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
カルシウム感受性受容体の発現が増殖因子により調節されている可能性を探るため、血小板由来成長因子(PDGF)受容体とカルシウム感受性受容体の関連に注目して予備実験を行った。正常ヒト由来の肺動脈平滑筋細胞株(PASMCs)にPDGFを作用させるとカルシウム感受性受容体の発現が亢進する結果を得た。さらに解析を進めたところ、興味深いことに、特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞(IPAH-PASMCs)では、①PDGF受容体が高発現している、②PDGF刺激によるPDGF受容体のリン酸化が長く持続する、③PDGF受容体の下流シグナルであるAktのリン酸化が促進していることを認めている。これらの結果は、肺動脈性肺高血圧症患者で亢進したPDGFシグナルが、カルシウム感受性受容体の発現を亢進させ、病態を悪化させていることを示唆している。したがって、PDGFシグナルによるカルシウム感受性受容体の発現制御機構の解明は、肺動脈性肺高血圧症の新たな治療戦略につながると考えられるため、さらに詳細に下流シグナルを解析する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度に購入したMillarシステム(カテーテルによる圧測定システム)を利用したin vivo実験が先行したため、消耗品等が当初の見積もりよりも若干低く抑えることがでした。次年度は、肺高血圧症モデル動物を用いたin vivo実験と培養細胞を用いたin vitro実験を並行して行う予定である。
|