研究課題/領域番号 |
17K08322
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
秋葉 聡 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (70231826)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脂肪肝炎 / 炎症 / ホスホリパーゼA2 |
研究実績の概要 |
本研究では,起炎関連酵素であるIVA型ホスホリパーゼA2(PLA2)が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の治療に関わる標的分子となることを,本酵素を介した細胞応答を担う病態責任細胞の同定を含めて明確にする。この目的を達成するために,世界で初めての試みとなる肝細胞やマクロファージなど病態の進展を担う各細胞種でのみ特異的にIVA型PLA2を欠損させたマウスを作出し,そのNASHモデルにおける病態解析や,病態責任細胞の同定を試みる。 平成30年度においては,cre-loxPシステムで作出したマクロファージまたは血管内皮細胞の各細胞種特異的IVA型PLA2欠損マウス,および,ポジティブコントロールとして同システムで作出した全身性IVA型PLA2欠損マウスを用い,コレステロール含有の高脂肪食を24週間投与したNASHモデルで検討した。その結果,平成29年度でのメチオニン減量コリン欠乏高脂肪食投与(3週間)によるNASHモデルでの結果と同様に,全身性IVA型PLA2欠損マウスはもちろん,血管内皮細胞種特異的IVA型PLA2欠損マウスでは,各対照マウスに比し,脂肪肝に伴う線維化が軽減され,線維化を直接担う肝星細胞の活性化マーカー遺伝子の発現増大も低下していた。一方,マクロファージ(単球)特異的IVA型PLA2欠損マウスでは,そのような軽減は見られなかった。この結果を培養細胞系にて確認したところ,マクロファージや肝実質細胞での細胞応答は,IVA型PLA2の欠損や阻害剤の影響は受けなかったが,培養肝星細胞での活性化マーカー遺伝子の発現増大は阻害剤により抑制された。従って,肝類洞内皮細胞および肝星細胞のIVA型PLA2がNASHの病態形成に関与することが示唆された。この実験結果を踏まえ,肝実質細胞または肝星細胞の各細胞種特異的IVA型PLA2欠損マウスを作出しており,令和元年度の実験に備えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NASHを誘発させる高脂肪食として,コレステロール含有高脂肪食を24週間投与する系での解析は,平成29年度での実施予定であったが,平成30年度で終えることができた。このために,肝実質細胞や肝星細胞の各細胞種特異的IVA型PLA2欠損マウスの作出に関しては,実験に供する遺伝子型のマウスが必要数得られなかったが,令和元年度中には実験に供することができると予想している。その一方で,培養細胞系での検討は順調に進み,実績の概要の項に記載したとおりの結果が得られた。なお,肝実質細胞または肝星細胞の各細胞種特異的IVA型PLA2欠損マウスを用いは実験結果に関しては,令和元年度には得られるものと予想している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) IVA型PLA2が介在するNASHの病態進展に寄与する細胞種の特定 今年度以降では,肝実質細胞や肝星細胞の各細胞種特異的IVA型PLA2 欠損マウスを用いて高脂肪食誘発性NASH肝線維化モデルの作製および病態の解析を行う。 (2) NASH治療標的分子としてのIVA型PLA2を有する病態責任細胞の同定 臨床においては,組織学的解析によるNASHの診断確定後に薬物治療を開始することが想定され,IVA-PLA2を標的とするNASHの薬物治療の実現化には,既に進行した肝線維化に対してIVA-PLA2の阻害による治療効果を示す必要がある。しかしながら,これまでの研究では,先天的に類洞内皮細胞のIVA-PLA2を欠損させたマウスを用いてNASHの病態軽減効果を実証したにすぎず,治療効果を実証するためには,NASH発症後にIVA-PLA2活性を消失させる実験系での病態に対する抑制効果を示す必要がでてきた。そこで,タモキシフェン誘導Cre-loxPシステムを利用した「時期」特異的IVA-PLA2欠損マウスを作出し,本遺伝子改変マウスに対して高脂肪食誘発性NASHを発症させた後に,タモキシフェン投与によりIVA-PLA2を欠損させ,病態の改善効果を評価するという着想に至った。今年度は,この実験系の予備的検討として,タモキシフェンの投与時期を設定するために,病態形成の経時変化を観察するとともに,タモキシフェン単独での病態モデルへの影響を検討し,さらなる基礎的知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度未使用額に相当する必要かつ適切な物品等がなかったために,次年度に繰り越した。なお,翌年度分の使用計画の物品費として使用する予定である。
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