本研究では,起炎関連酵素であるIVA型ホスホリパーゼA2(PLA2)が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の治療に関わる標的分子となることを,本酵素を介した細胞応答を担う病態責任細胞の同定を含めて明確にする。この目的を達成するために,世界で初めての試みとなる肝細胞やマクロファージなど病態の進展を担う各細胞種でのみ特異的にIVA型PLA2を欠損させたマウスを作出し,そのNASHモデルにおける病態解析や,病態責任細胞の同定を試みる。 令和元年度においては,前年度の結果から肝類洞内皮細胞および肝星細胞のIVA型PLA2がNASHの病態形成に関与することが示唆されたことを踏まえ,肝実質細胞や肝星細胞の病態形成への関与の有無を明らかにするために,cre-loxPシステムで作出した肝実質細胞または肝星細胞の各細胞種特異的IVA型PLA2欠損マウスを用い,コレステロール含有の高脂肪食を投与したNASHモデルで検討した。その結果,全身性IVA型PLA2欠損マウスおよび血管内皮細胞特異的IVA型PLA2欠損マウスでは,各対照マウスに比し,脂肪肝に伴う線維化が軽減されたことに反して,肝実質細胞または肝星細胞の特異的IVA型PLA2欠損マウスでは,そのような軽減は見られなかった。従って,NASHの病態形成に関与する肝実質細胞や,マクロファージ,肝類洞内皮細胞,肝星細胞などの主な4つの肝構成細胞のうち,肝類洞内皮細胞のIVA型PLA2がNASHの病態形成を担っていることが示唆された。 今後の研究の展開としては,肝類洞内皮細胞のIVA型PLA2がNASHの治療標的分子となることを,より明確に立証するために,時期選択的に,全身性または血管内皮細胞特異的にIVA型PLA2を欠損させることができる遺伝子改変マウスを用いて,NSAHの病態を形成させた後に本酵素を欠損させる系にて検討していく予定である。
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