研究課題
我々は、シナプス開口分泌を促進的に調節するシナプス小胞タンパク質2A(Synaptic vesicle glycoprotein 2A: Sv2a)に着目し、Sv2a遺伝子にミスセンス変異を導入したSv2a変異(Sv2aL174Q)ラットの行動表現系を解析することにより、シナプス分泌障害と精神疾患の発症脆弱性との関連を研究している。本年度は、統合失調症で異常がみられる驚愕反応プレパルス抑制現象について検討を加えるとともに、大脳辺縁系の側坐核におけるドパミン遊離の変化についてin vivo microdialysis法を用いて解析し、以下の結果を得た。①実験にはSv2a変異ラットおよびF344ラット(対照)を使用した。②生理食塩水あるいはメタンフェタミン(1 mg/kg)を投与し、15分後に驚愕反応プレパルス抑制試験を行った。③プレパルス条件を70dB+120dB、75dB+120dB、80dB+120dB、85dB+120dBの音量範囲に設定し検討した結果、Sv2a変異ラットではF344ラットに比べ、プレパルス抑制反応が有意に低下していることが明らかとなった。④覚せい剤であるメタンフェタミンを投与した場合、メタンフェタミンによるプレパルス抑制の低下はより顕著となり、Sv2a変異がプレパルス抑制機構を障害することが確認された。⑤驚愕反応プレパルス抑制は、聴覚情報が体性感覚野に至る経路の制御機構であり、統合失調症などの精神疾患において障害を受けることが知られている。このことから、 Sv2aの機能低下が精神疾患の発症脆弱性を亢進する可能性が示された。さらに、⑥側坐核における脱分極刺激およびメタンフェタミンによるドパミン遊離を評価した結果、 Sv2a変異がドパミン遊離を亢進することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
今回、驚愕反応プレパルス試験で、統合失調症患者と同様にプレパルス抑制の障害が認められたことから、Sv2a変異による開口分泌障害が精神機能障害を惹起する可能性がさらに支持された。すなわち、覚せい剤メタンフェタミンの逆耐性現象(感受性増強)獲得反応の亢進や、幼児期隔離飼育ストレスによる攻撃行動の発現亢進などと一致して、Sv2a変異が精神興奮を誘発することが確認され、Sv2aが精神疾患の発現調節に極めて重要な役割を有することが明らかとなった。さらに、Sv2a変異による精神障害の発現には、大脳辺縁系でのドパミン遊離(開口分泌)の上昇が関与していることが示唆され、病態メカニズムの糸口を掴むことができた。
上記の研究進捗は予定通りである。次年度において、精神障害の発現調節におけるSv2aの詳細なメカニズム(側坐核でのドパミン遊離亢進機構)をさらに検討し、得られた研究成果を学術論文に掲載し、世界に発信して行く予定である。
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