研究課題
核内タンパクhigh mobility group box1 (HMGB1) は活性化マクロファージや壊死細胞などから細胞外へ放出されると炎症反応促進的に働くことが知られている。HMGB1はアミノ末端から23、45及び106番目にシステイン残基 (Cys) を有し、これらすべてがチオール基のall-thiol-HMGB1 (at-HMGB1) はreceptor for advanced glycation end products (RAGE) を、また23と45番目のシステイン残基がジスルフィド結合したdisulfide-HMGB1 (ds-HMGB1) はToll-like receptor 4 (TLR4) を活性化することで炎症反応や痛みを増強する。近年、細胞外に放出されたHMGB1が神経突起伸長を促進することが示され、HMGB1が神経損傷後の修復に関与する可能性が示唆されている。本研究課題においてH29年度は、雄性ddYマウス後根神経節 (DRG) から採取した初代培養神経細胞を用いてレドックス状態の異なるHMGB1の突起伸長に及ぼす効果を検討したところ、at-HMGB1のみがRAGEを介して神経突起を促進することがわかった。またこの反応は、血管内皮に発現しHMGB1を吸着してthrombinによる分解を促進するthrombomodulin (TM) の細胞外ドメイン(D1~D3)からなるTM alfa (TMα) のD1にat-HMGB1が吸着されて抑制されること、さらに、単独では効果を示さない低濃度のTMαと突起伸長に影響しない濃度のthrombinを同時に作用させると、D1に吸着したat-HMGB1がD2に結合したthrombinにより分解されて不活性化されることで突起伸長が抑制されることがわかった。これらの結果は、神経損傷後の軸索再生における内因性HMGB1の役割と、その吸着・分解作用を有する血管内皮のTMやthrombinによる抑制的調節を示唆するもので、神経軸索再生の治療戦略における新たな標的分子を提案する知見である。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題に関連する研究は、主に修士課程の大学院生と進めており、学会発表に十分なデータが揃ったことから、H29年度はこの大学院生により国内の学会で2回、国外の学会で1回発表を行うことができた。これまでは、正常マウスから摘出した後根神経節(DRG)の神経突起伸長を検討していたが、H29年度後半からは、神経損傷を施したマウスから摘出したDRGの突起伸長における内因性HMGB1の影響についても検討を進めている。神経損傷後のマウスDRGでは、正常マウスDRGに比べ神経突起伸長が促進していること、さらにこの促進反応には、神経損傷後に損傷を受けた神経の周囲で増加したHMGB1が寄与することを示す結果を得ている。この結果については、H30年7月にBerlinで開催されるFENS2018で発表する予定である。H30年度後期に論文作成に着手し、H31年度初めには論文投稿を行う予定である。以上より、本研究課題の進捗状況は概ね順調であると考えている。
現在検討している神経損傷マウス由来後根神経節(DRG)の神経突起伸長の促進反応について、DRGのいずれのタイプの神経において突起伸長が促進されるのかを解明するため免疫染色法により検討を行う。H30年度後半からは、マウスの歩行運動を指標に、坐骨神経圧迫により神経を損傷させたマウスの歩行運動回復における内因性HMGB1の関与を、抗HMGB1中和抗体やHMGB1を吸着・分解するthrombomodulin alph(TMα)を投与することで検討していく。これら実験結果は、国内外の学会で発表を行うとともに、H30-31年度に論文投稿準備を行い、H31年度始めに学術雑誌へ投稿する予定である。
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http://www.phar.kindai.ac.jp/byoutai/index.files/byoutai.htm