研究課題
核内タンパクHMGB1は活性化マクロファージ(Mφ)や壊死細胞などから細胞外へ放出されるとRAGEやTLR4などの受容体を介して炎症反応や痛みを増強する。近年、細胞外に放出されたHMGB1が神経突起伸長を促進することが示され、HMGB1が神経損傷後の修復に関与する可能性が示唆されている。本研究課題において、H29年度にマウスから摘出した後根神経節 (DRG)の初代培養神経細胞の神経突起伸長がHMGB1刺激で促進され、この反応にはRAGEが関与するとの知見を得たことから、H30年度は同じ初代培養DRG神経を用いて、内因性のHMGB1が神経突起伸長に及ぼす影響について検討した。麻酔条件下、マウスの坐骨神経を露出させ、ピンセットで神経を挫滅させた6日後に摘出したDRG神経を48時間培養して突起伸長を検討したところ、Sham処置マウスのDRG神経に比べ有意に突起伸長が増加していた。この突起伸長促進は48時間の培養中に抗HMGB1中和抗体(HMGB1-Ab)を作用させても抑制されなかった。一方、神経挫滅処置の1時間前と処置翌日から毎日1回、HMGB1-Abを投与したマウスより摘出したDRG神経では突起伸長促進は見られなかった。また、同様にMφからのHMGB1遊離を抑制するethyl pyruvate、Mφ活性抑制薬のminocyclineをHMGB1-Abと同じスケジュールで投与した坐骨神経挫滅マウスのDRG神経においても突起伸長促進は消失した。これらの結果から、神経損傷時に神経に集積したMφから遊離されるHMGB1が知覚神経に作用した結果、DRG神経が神経突起伸長反応を増加させる性質を獲得したこと、また、この性質の変化にはDRG神経自体から放出されるHMGB1は寄与しないことが示唆された。これらの結果は、神経損傷後の軸索再生における内因性HMGB1の役割を示唆するもので、神経軸索再生の治療戦略における新たな標的分子を提案する知見である。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題に関連する研究は、主に修士課程の大学院生と進めており、学会発表に十分なデータが揃ったことから、H30年度はこの大学院生により国外の学会で1回発表を行うことができた。これまでは、正常マウスから摘出した後根神経節(DRG)の神経突起伸長を検討していたが、H29年度後半からは、神経損傷を施したマウスから摘出したDRGの突起伸長における内因性HMGB1の影響についても検討を進めている。神経損傷後のマウスDRGでは、正常マウスDRGに比べ神経突起伸長が促進していること、さらにこの促進反応には、神経損傷後に損傷を受けた神経の周囲で増加したHMGB1が寄与することを示す結果を得ている。H31年度は論文作成に着手し、論文投稿を行う予定である。以上より、本研究課題の進捗状況は概ね順調であると考えている。
現在検討している神経損傷マウス由来後根神経節(DRG)の神経突起伸長の促進反応について、DRGのいずれのタイプの神経において突起伸長が促進されるのかを解明するため免疫染色法により検討を行う。H31年度は、マウスの歩行運動を指標に、坐骨神経圧迫により神経を損傷させたマウスの歩行運動回復における内因性HMGB1の関与を、抗HMGB1中和抗体やHMGB1を吸着・分解するthrombomodulin alph(TMα)を投与することで検討していく。これら実験結果は、国内外の学会で発表を行うとともに、H30-31年度に論文投稿準備を行い、H31年度に学術雑誌へ投稿する予定である。
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https://www.phar.kindai.ac.jp/byoutai/index.files/byoutai.htm