研究実績の概要 |
慢性閉塞性肺疾患 (chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は、タバコ煙を主とする有害物質の長期吸入暴露によって生じる肺の炎症性疾患であり、禁煙が最も効果的である。禁煙補助薬バレニクリンは、α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR)部分作動薬及びα7nAChR完全作動薬であり、肺機能を改善した報告もある。骨基質タンパクosteopontin (OPN)は、マクロファージ、活性T細胞などにおいて炎症過程で増加し、COPD患者の喀痰中で増加する報告がある。そこでOPNに着目しバレニクリンによる肺保護作用の機序を検証した。 C57BL/6マウスにエラスターゼPPE 2Uを気管内に噴霧したCOPDモデルマウスに、バレニクリン (0.5mg/kg/day)、α7 nAChR拮抗薬(MLA; 5mg/kg/day)を3週間投与し、肺組織におけるOPNの発現をwestern blot法で評価した。その結果、バレニクリンは、肺組織でPPEによるOPNタンパク発現増加を有意に抑制した。一方、MLAはバレニクリンによるOPN発現抑制を阻害した。次に、培養肺胞マクロファージ (MH-S)に、 バレニクリン及びMLAを処理し、western blot法、リアルタイムPCR法を用いてOPN発現を比較した。その結果、MH-Sにおいてバレニクリン (0-10 µM,24h) はOPNのタンパク及びmRNA発現を濃度依存的に減少させた。さらに、MLA(1 µM)併用にでバレニクリンによるOPNのタンパク及びmRNA発現減少を有意に阻害した。したがって、バレニクリンはα7 nAChRを介して、PPE誘発COPDモデルマウスの肺組織および肺胞マクロファージにおけるOPNのタンパク・mRNA発現を有意に減少させ、肺を保護したことが示唆される。
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