研究課題/領域番号 |
17K08331
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
木村 英雄 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所, その他 (30321889)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 硫化水素 / ポリサルファイド / 亜硫酸 / 神経保護作用 / 3MST / TRPA1 / 記憶 |
研究実績の概要 |
1.研究実施計画の第3項目にある硫化水素と一酸化窒素との相互作用の研究において、ポリサルファイドが生産されることを2017年に明らかにした。この研究の途上、硫化水素やポリサルファイドがさらに参加されて生産される亜硫酸に神経保護作用があることを発見した。先ず、脳内在性亜硫酸が存在することをHPLC測定によって定量し、この働きを解明すべく、高濃度グルタミン酸を投与し、酸化ストレスを与えた初代神経培養に加えたところ、脳内在性濃度の亜硫酸が、神経細胞内のシステインとグルタチオン濃度を上昇させ、酸化ストレスによる神経細胞死を阻止することが分かった。そのメカニズムとしては、細胞外のシスチンをシステインに変換することにより、より効率よく細胞内システインを上昇させ、グルタチオン合成を亢進することが明らかとなった。この反応において同時にS-システインスルフィン酸が合成される。これは、NMDA受容体アゴニストであるが、ここからできる濃度は興奮性毒性を誘導する濃度には達しないため、亜硫酸を神経保護作用誘導物質としてさらなる検討の意義があると考える。ただし、亜硫酸はすでにワインなどの保存料として使われているが、これにアレルギーを示す個人には注意が必要となる。論文をBr. J. Pharm. に発表した。 2.硫化水素およびポリサルファイドの生体における働きをより詳しく検討する目的で、その生産酵素3-mercaptopyruvate sulfurtransferase (3MST)と標的分子であるtransient receptor potential ankyrin 1 channels (TRPA1)のノックアウトラットを作成し、その記憶を中心としたneuromodulationについて検討を行っており、未発表ではあるが、海馬長期増強(LTP)にかかわっていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画にはなかったが、第3項目を検討中に新たな発見があり、これをまとめてBr. J. Pharm.に論文発表を行った。 硫化水素とポリサルファイドの生理機能について検討すべくその合成酵素と標的分子のノックアウトラットを作成し、その機能解析が計画以上に進展している。 第4項目東京大学との共同研究による特異的阻害剤および蛍光プローブの開発は予想以上に早く進み、それぞれSci RepとChem Communに昨年論文を発表している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、硫化水素とポリサルファイドの神経伝達修飾作用、特に記憶形成における役割について、LTPを中心にその作用の検討を続ける。また、動物個体を使っての行動実験も国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所の山田先生とのきょうどうけんきゅうにより、進めていく予定である。 また、3MSTノックアウトラット脳では、野生型ラット脳にくらべ結合型イオウ量が半分以下であり、この減少しているイオウ分子種について検討を進める。新たなイオウ分子種が確認された場合は、東大薬学部花岡先生との共同研究により、特異的蛍光プローブを開発し、その胴体についての研究につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
1昨年度3MSTおよびTRPA1ノックアウトラットを作成時、作成困難で、作成をやり直して再度頃見たため、10か月ほどの遅れが生じてしまった。両モデルラットが完成し、続く研究の予想を上回る速さで進んでいる。当初計画にはなかったが、派生した次段階の研究についても翌年度分として請求した助成金と合わせて使用し、研究を進める。
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