研究課題/領域番号 |
17K08332
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉本 尚子 千葉大学, 大学院薬学研究院, 講師 (10415333)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生合成 / 植物 / 天然薬用資源 / 硫黄 / システインスルホキシド |
研究実績の概要 |
ネギ属等の植物が含むシステインスルホキシド誘導体やその生合成中間体や、組織損傷時にシステインスルホキシド誘導体から生じる硫黄化合物群は、癌や循環器系疾患の予防や改善に役立つ薬学的に有用な成分である。本研究では、ディープ・トランスクリプトームと含硫黄代謝物プロファイルの統合解析に基づいたシステインスルホキシド誘導体生合成酵素遺伝子群の網羅的同定と、分子生物学的・生化学的手法による各遺伝子の機能解析を行い、その結果を異種生物における機能性含硫黄成分の生合成系構築に応用する。平成30年度に行った主な研究内容は以下のとおりである。1.平成29年度に探索したニンニクのシステインスルホキシド誘導体の生合成における脱グリシル化酵素候補AおよびBについて、N末にHisタグを付加した大腸菌組換えタンパク質を発現させた。空ベクターを導入した大腸菌の粗タンパク質と比較して、AおよびBを発現させた大腸菌の粗タンパク質は、推定生合成基質に対して顕著な脱グリシル化活性を示した。しかし、AおよびBのHisタグ付加組換えタンパク質をNiレジンを用いてアフィニティ精製したところ、脱グリシル化活性は激しく低下した。詳細な機能解析のためには、精製用のタグの位置や種類、精製方法の検討が必要であると考えられる。2.平成29年度に探索したタマネギのシステインスルホキシド誘導体生合成における脱グルタミル化酵素候補3種、S-酸化酵素候補1種について、酵母組換えタンパク質を作製して機能を解析した。その結果、タマネギの脱グルタミル化酵素やS-酸化酵素は、ニンニクの同様の酵素とは機能の特徴が異なることが示された。3.平成29年度に探索したニンニクのシステインスルホキシド誘導体生合成における酸化的脱炭酸酵素候補2種について、酵母組換えタンパク質を作製してin vitro酵素反応を行ったが、目的とする酵素反応は検出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ディープ・トランスクリプトームデータと含硫黄代謝物プロファイルの統合解析によるシステインスルホキシド誘導体の生合成に関わる酵素遺伝子の探索と候補遺伝子クローニングは予定どおり進んでいる。ニンニクの脱グリシル化酵素、タマネギの脱グリシル化酵素とS-酸化酵素については既に目的とする酵素活性が観察されている。それ以外の酵素候補遺伝子についてもin vitro解析系の構築や酵素反応の予備実験が予定どおり進んでいる。このため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に引き続き、酵素遺伝子の探索と候補遺伝子クローニング、機能解析を進める。ニンニクの脱グリシル化酵素については、組換えタンパク質の精製用のタグの位置や種類、精製方法の検討を行い、精製タンパク質を用いて詳細な機能解析を行う。脱グルタミル化酵素とS-酸化酵素については、ニンニクとタマネギ由来の酵素の触媒機能の詳細な比較を行い、植物間の含硫黄化合物プロファイルの差異との関連を明らかにする。酸化的脱炭酸酵素候補については、予備実験で活性が検出されなかった2種の候補以外の候補も含めて、組換えタンパク質発現系や酵素精製法を複数試し、着目する酵素活性の検出を目指す。また、in vitro解析系において目的とする酵素活性がみられた酵素と宿主の組み合わせを用いて、複数遺伝子の同時導入による生合成系の異種生物における構築を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の後期に酵素反応生成物を分析するためのHPLCが故障し、予定していた分析ができなかったため、分析用の試薬の購入費用が少額余った。HPLCの修理は既に完了しており、遅れた分析は平成30年度の残りの金額を用いて令和元年度(平成31年度)の初期に行う予定である。
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