ネギ属やツルバギア属の植物が含むシステインスルホキシド誘導体(CSOs)やその生合成中間体や、組織損傷時にCSOsから生じる硫黄化合物群は、癌や循環器系疾患の予防や改善に役立つ薬学的に有用な成分である。本研究では、ディープ・トランスクリプトームと含硫黄代謝物プロファイルの統合解析に基づいたCSOs生合成酵素遺伝子群の網羅的同定と、分子生物学的・生化学的手法による各遺伝子の機能解析を行い、その結果を異種生物における機能性含硫黄成分の生合成系構築に応用する。令和元年度に行った主な研究内容は以下のとおりである。1.平成30年度までに同定したニンニクとタマネギの代表的CSOsであるアリインとイソアリインの生合成においてS-酸化反応を行う酵素について、基質特異性とS-酸化の立体特異性の詳細な解析を行った。その結果、ニンニクとタマネギのS-酸化酵素は基質特異性はやや異なるが立体特異性は同じであることが示唆された。2.平成30年度までに、ニンニクのアリインの生合成中間体を脱グリシル化する2つの酵素を、N末にHisタグを付加した大腸菌組換えタンパク質の酵素活性測定から同定した。しかし、これらのタンパク質はNiレジンを用いたアフィニティ精製により脱グリシル化活性が激減した。そこで令和元年度はこのタンパク質の精製用のタグの位置や種類、精製方法の検討を行い、精製タンパク質の機能解析を行った。3.平成30年度までにクローニングしたツルバギアの代表的CSOsであるマラスミンの生合成においてS-酸化反応を行う酵素をコードすると考えられる2種の遺伝子を酵母に導入し、得られた組換えタンパク質を用いてin vitro酵素活性測定を行った。その結果、1種の酵素がマラスミン生合成中間体に含まれる2つの硫黄原子のうち1つをS-酸化してマラスミンに変換することが示された。
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