研究実績の概要 |
本年度は, 抗癌剤であるヒドロキシウレア(HU)の大腸菌を宿主とした生産系の構築を目標とし, HU生産系の構築に先立ち, その前駆体であるNG-ヒドロキシ-L-アルギニン(NHA)の生産系の構築を行った。 まず, NHAの生産に必要であるホウレン草由来のフェレドキシン(FDX), および, フェレドキシン還元酵素(FDR)について, それらの大腸菌における発現性を調査した。コドンのバイアスを考慮し, FDXおよびFDRをコードする人工遺伝子を作製し, 大腸菌で発現させた結果, 両タンパク質は可溶性タンパク質として良好に発現することが明らかになった。また, 精製したFDXおよびFDRについて, 吸収スペクトルを解析した結果, それぞれが属するタンパク質ファミリーに特有のスペクトルを示したことから, 両タンパク質は活性を保持した状態で発現しているものと考えられた。 ホウレン草由来のFDXおよびFDRに加え, NHA生産系の構築には, NADPH再生酵素であるZwfが必要である。そこで, Zwfを大腸菌で発現させた結果, 本タンパク質は可溶性のタンパク質として良好に発現した。また, 精製したZwfについて, NADPHの再生活性を340 nmの吸収を測定することにより調査した結果, NADPH再生活性を保有することが明らかになった。なお, NHAの生産には, アルギニンの水酸化を触媒する放線菌由来のDcsAが必須であるが, 本タンパク質の大腸菌での発現性は既に調査済みである。 以上の結果を受けて, FDX, FDR, ZwfおよびDcsAをコードする遺伝子を大腸菌に導入することで, NHA生産系の構築が可能になると考え, それらをコードする遺伝子を同時に大腸菌に導入し, NHA生産用大腸菌を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, ホウレン草由来のFDXおよびFDRをコードする遺伝子(fdxおよびfdr), NADPH再生酵素Zwfをコードする遺伝子(zwf), アルギニン水酸化酵素DcsAをコードする遺伝子(dcsA), および, NHA加水分解酵素DcsBをコードする遺伝子(dcsB)を大腸菌に同時に導入し, 大腸菌を宿主とした抗癌剤HUの生産系の構築を計画した。 本年度の成果としては, まず, 人工遺伝子として作製したfdxおよびfdrを大腸菌に導入することにより, 両タンパク質ともに活性を保有すると考えられる構造で発現させることに成功した。また, Zwfについては, 大腸菌において活性を保持する構造で発現させることができた。これらの結果を受け, fdx, fdr, zwfおよびdcsAを大腸菌に同時に導入することにより, NHA生産用大腸菌を作製することができた。本年度の目標は, NHA生産用大腸菌にdcsBを導入し, 抗癌剤HUの生産系を構築することであったが, これについては達成することができなかった。しかしながら, NHA生産用大腸菌にdcsB遺伝子を導入するのみで完了することから, ほぼ概ね達成できたものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ概ね計画通りに研究が遂行されていることから, 推進方策について大きな変更はない。ただし, 本年度で計画していた「大腸菌を宿主とした抗癌剤HUの生産系の構築」については, 次年度に行うことにする。「大腸菌を宿主とした抗癌剤HUの生産系の構築」は, 本年度作製したNHA生産用大腸菌にdcsB遺伝子を導入するのみでよいことから, 比較的容易に完了するものと考えている。したがって, 上述した研究を一部追加はするものの, 次年度に予定していた計画を変更することなく研究を遂行できるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
NHA生産用大腸菌の作製までは完了したものの, NHA生産用大腸菌にdcsB遺伝子を導入することにより, 抗癌剤HUの生産系の構築を本年度に行うことができなかったため, それらに関わる費用が次年度使用額として生じた。 生じた次年度使用額については, 「NHA生産用大腸菌にdcsB遺伝子を導入することによる抗癌剤HUの生産系の構築」の目的のためのみに使用し, その他の目的のためには使用しない。その他の予算については, 当初に計上した通りであり, 変更はない。
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