研究実績の概要 |
本年度は, すでに構築済みのD-サイクロセリン(D-CS)生産系の生産能を向上させるため, ATP再生系の導入を行った。 まず, ATP再生酵素の候補として, Streptomyces lividans由来のsliv37110がコードするタンパク質を選択し, 本遺伝子を大腸菌において発現させ, その機能解析を行った。ベクターとしてpET-28a(+), 大腸菌宿主としてBL21(DE3)株を用いて発現を試みたところ, Sliv37110は発現したものの, 可溶性タンパク質としての発現性は低かった。そこで, シャペロンタンパク質(GroES/GroEL)の共存下, Sliv37110の発現を試みた結果, 本タンパク質は可溶性のタンパク質として良好に発現したため, ニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより, 単一タンパク質として精製した。精製したSliv37110は, マグネシウムイオンと鎖長6のポリリン酸の存在下, ADPからATPを生成する活性を示した。続いて, 本タンパク質の特性解析を行った。まず, 至適温度と至適pHを調べた結果, それぞれ37℃および9.5であることが明らかになった。次に, ポリリン酸の鎖長の嗜好性を調査した結果, 鎖長3, 4, 6の中では, 鎖長6のポリリン酸を最も好むことが判明した。以上の結果から, Sliv37110は2型のポリリン酸キナーゼ(PPK)であることが明らかとなり, ATP再生酵素として利用できることが判明した。 以上の結果を受け, 既存のD-CS生産系にsliv37110を導入し, D-CS生産を試みた。その結果, sliv37110の導入により, D-CS生産性の向上が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初の計画は, 1) ATP再生酵素の候補であるSliv37110の機能解析を行い, 本タンパク質がATP再生酵素として利用できることを明らかにすること, 2) Sliv37110をコードする遺伝子を, 既存の大腸菌を宿主としたD-CS生産系に導入し, D-CS生産性の向上を図ることであった。しかしながら, 昨年度に計画していた「大腸菌を宿主とした抗癌剤ヒドロキシウレア(HU)の生産系の構築」の一部が達成できていなかったため, 達成できていなかった点についても本年度の計画に追加した。 本年度の成果としては, まず, Sliv37110を可溶性のタンパク質として発現させることに成功し, 精製タンパク質の機能解析を行った結果, Sliv37110はPPK2であることが分かり, 本タンパク質をATP再生酵素として利用できることを明らかにすることができた。また, Sliv37110遺伝子を既存のD-CS生産系に導入した結果, D-CS生産性の向上に成功した。一方, ヒドロキシアルギナーゼをコードするdcsB遺伝子を, 昨年度構築したヒドロキシアルギニンの生産系に導入することによるHU生産系の構築については, dcsB遺伝子の導入までは完了したが, HU生産実験を行うまでには至らなかった。以上の成果から, 一部達成できなかった点はあったものの, 研究計画はほぼ概ね達成できたものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ概ね計画通りに研究が遂行されていることから, 推進方策について大きな変更はない。ただし, 昨年度の研究計画から本年度にスライドしていた「大腸菌を宿主とした抗癌剤HUの生産系の構築」の一部については, 次年度に行うことにする。「大腸菌を宿主とした抗癌剤HUの生産系の構築」は, 系の構築自体は完了しており, HU生産について検証するのみでよいことから, 比較的容易に完了するものと考えている。したがって, 上述した研究を一部追加はするものの, 次年度に予定していた計画を変更することなく研究を遂行できるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
「大腸菌を宿主とした抗癌剤HUの生産系の構築」において, ヒドロキシアルギニン生産用大腸菌にdcsB遺伝子を導入することにより, 抗癌剤HUの生産系の構築自体は完了したものの, HU生産実験を本年度に行うことができなかった。そのため, それらに関わる費用が次年度使用額として生じた。
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